或る夜

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「契約内容は問題なかったでしょうか?」 「まぁ、良いでしょう。 じゃこれでお願いしますね。 熱意に負けましたよ、波呂さん」 「ありがとうございます!!」 ヨシ!!漸く纏まった! やっと!! 机の前で事務方や開発部より 自分には営業職が向いていると思う。 対人相手だから多種多様な場面で臨機応変さが 求められることも日々変化があって楽しい。 無論、要点をすぐさま理解しスムーズに話が進む人や 幾度となく交渉の場を持つことで段々受け入れてくれる人が 大半を占める中、何を今まで聞いていたのか? と問いたくなるくらいややこしい人も……残念ながらいるわけで。 それが今まさに目の前で端末にサインをしている 大堰商社の志田さんだった。 最初のアポ取りから契約にこぎつけるまで数か月。 この会社にはもっと話が分かる人はいないのかと 幾度思ったことか…… 時々同席している隣の少し若そうな男は 俺がチラリと見る度、苦笑いしつつ 大堰さんに同調するだけ。 ソレ(・・)は営業先で何度も見てきた光景だった。 ……相手、課長だもんな。 そうそう自分の意見は言えないか。 その都度、自分は本当に恵まれているんだなと 思い知らされてきた。 俺の会社は上昇志向の強い人ばかりで 社内競争は激しいけど ちゃんと話に耳を傾けてくれる上司達がいる。 でも君のところは………… その表情から企画書とか拾ってくれるような上司では なさそうだと容易に想像できるよ。 キツイだろう。 大手の会社だからねこのままいても安泰かもしれない。 でも、現状が不条理だと思うんなら 余計なお世話だろうけど、 自分の人生は自分で舵を取らないと 誰かの羅針盤では難破するの目に見えてるよ。 ……ごめんね。 俺は他社を引き合いに出しては無理な値下げ交渉や 到底ありえない注文をつけまくってきた 君の上司とこれでやっと接する機会が減るよ。
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