或る夜

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「え?……今なんて仰いました?」 電話向こうの相手は大堰商社の瀬倉さん。 例の志田課長の横でいつも座っていた、あの人。 「理由を教えてもらえないでしょうか? ええ……その件は最初からお伝えしていたと思います。 いや、でも契約はもう…………え? それは……あ、そうなんです……ね。 もう一度?……それは構いませんが、お時間少し貰っていいですか。 折り返しお電話致します……失礼致します」 電話が切れたのを確認した上で、 「ふざけるな!」 と、吐き出した。 「波呂、何て言ってきたんだ?」 俺の電話対応の様子を見て 光忠部長は何か問題があったかのかと聞いてきた。 「この前の契約は不完全なので 志田さんがもう一度都合をつけてくれと言ってると」 「不完全?いや、契約自体は成立してるんだろ。 アフターフォローの言い間違いじゃないのか」 「それが……その書類自体に不備があるとのことで」 「この前確認したがな」 「!」 光忠さんと目が合って つい視線をそらしてしまった。 「向こうが言うには契約書の割り印の印鑑が 二か月前に変更になったのを 忘れていて以前のだから無効だとか」 「は?バカなのか?大堰」 光忠さんでさえその反応。 あんなに苦労してやっと解放されたと思っていたのに この期に及んでふざけたことを平然と言ってくる大堰、 いや志田。 「…………破呂、相手は何か企んでる可能性ある。 気を付けろよ」 いま、俺も同じことを思っていた。
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