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 今日は、村で精霊降臨の儀が行われる特別な日だ。村の中央に広がる広場には、花々と美しい石が飾られた特別な祭壇があり、村人たちが続々と集まっている。太鼓の音が響く中、華やかな民族衣装をまとった坊主がやってきた。 「隣村から来ました坊主です。よろしくお願いします」と彼は静かに告げ、祭壇の方へと向かっていく。  やがて、村の男たちが大きな太鼓をドンドンと叩き始めると、村人たちは楽しげに輪になって踊り出した。にぎやかで活気に満ちた雰囲気が広がる中、彼らの中に一人、異様な存在感を放つ男がいた。がっしりとした体格で、ぽっちゃりとした腹をしたその男には、どこか神秘的で強大なオーラが漂っている。 「まさか、あれが肥満神……?」  神々しい気配と、周囲とのコミュニケーションの欠如に、俺は不思議な視線を向ける。男は独りよがりに楽しんでいるようにも見え、会話をすることなく、ただ踊りの輪に加わっていた。だが、その存在感は、まるでこの世のものとは思えない。 「あのおっさん……やなかった。 神は村人に見えてるんか?」  肥満神と思われるその男が、何度か村人たちに語りかけるシーンを目にするのだが、彼らはまるで聞こえていないかのように、独自のリズムで踊り続ける。そんな中、夜空には無数の星が輝き、坊主が詠唱を唱え始めると、穏やかな風が広場に吹き渡った。その瞬間、精霊が降臨する気配が高まり、村人たちは期待に胸を膨らませた。  すると、肥満神と思われるその男が突如、こちらに向かって話かけてきた。 「何してんの? これ?」 坊主の詠唱でかき消される程度の小声で聞いてきた。 「!? ………。 儀式。 儀式」 驚いた後に、少し間をおいてから簡単に答えた。 「儀式やってんの? 何の?」 「毎年やってる伝説のやつ」 「伝説って何の?」 「肥満神がやせ神に乗っとられるってやつ」 「僕、乗っとられんの?」 まるで、他人事のようにサラッと明るく聞いてきた。 「うん」 答えた後、彼はしばらくニコニコして沈黙した。その後、 「暇やねん」 「えっ?」 聞き間違いかと思い、聞き返す。 「暇やねん」 「暇?」 「暇」 「しゃーないな」  そう答えると、肥満神はフラフラと広場から離れていった。ここまでの会話は周りには聞こえていないようだ。  そして、儀式が最高潮に達する寸前、異様な気配が広場に忍び寄った。ガリガリにやせた半透明な存在で、骨があらわになっている不気味な姿。おそらく、これが伝説のやせ神だろう。奴は肥満神を狙っていた。 「ググググッ……今日コソハ肥満神ヲ我ガモノニ……」  やせ神の存在は明らかに異質で、周囲の雰囲気にそぐわない。だが、村人たちは気づいていないかのように、ただ儀式に集中している。肥満神も、奴の存在を感じている様子はなかった。 「肥満神ヨ! 我ガ手中二!」  やせ神が不気味な声で叫ぶと、突然、肥満神がやってきてプラスチック製の小型水鉄砲を坊主の頭に向けて構え出し、勢いよく数発撃った。肥満神の存在は見えていないのだが、明らかに水鉄砲で坊主の頭が濡れている。その様子を見た俺は焦り、慌てて坊主の元へ駆け込んで、頭に唾を数発吹き付けた。その行動に乗じて肥満神は再び広場から離れていった。 「ぺっ! ぺっ! ぺっ!」  その感触に気づいた坊主は目を開け、勢いよく声を荒げた。 「おい!」  その声にやせ神は怯み、静止した。坊主の怒りは収まらず再び発した。 「おい!」 「すいません。 口の中が気持ち悪くなってもて…… すいません」  もっともらしい理由をつけて謝る俺。怒りは少し収まった様子だが、まだモヤモヤしたまま持ち場に戻り詠唱を続ける坊主。その間、やせ神は何を見せられているのかわからない顔をしているようだ。  少しの間をおいて、祭壇に強烈な光の柱が現れた。あたりはまぶしい光に包まれ、誰も目を開けていられなかった。村人たちはその光の中、偽式の成り行きを固唾を飲んで見守るしかなかった。  
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