降臨

1/1

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

降臨

 光が徐々に収まり、俺は恐る恐る目を開け始めた。その瞬間、祭壇の上には、まるで夢の中から現れたかのような半透明で神々しい存在が浮かんでいた。その輝きは、まばゆくも静かで、見る者の心を包み込むようだった。 (あれが……精霊……なんか?)  俺は驚きと恐怖を感じるほど素晴らしさを感じつつ、目を凝らしてその姿を見つめた。輝きが少しずつ弱まり、その後ろ姿が徐々に浮かび上がってくる。頭には左右にツノのある兜、肩から脚を覆う長いマントを身に着けていた。そして、マントが風に舞うと、その全体像が明らかになった。全身は筋肉で隆起し、まるで鋼鉄のような重厚なパンツとブーツを着用し、片手には厚紙で頑丈そうに作られたハリセンを持っている。 (精霊というより、これは武人やな……)  その姿には、圧倒的な力と威厳が感じられた。しかし、他の村人たちには、この武人が見えている様子はない。肥満神、やせ神、そしてこの武人と、神々の存在が人々には見えないのだろうか。  その時、広場にはドラムの音が鳴り響いた。ドラムは軽快なリズムを刻むように音を発し続け、坊主が目を閉じながらドラムの鼓動に合わせて優雅に踊り出した。彼は流れるように回転し、独特なリズムで舞い上がる。まるで、ドラムの鼓動する数を数えるように。  やせ神が肥満神に襲いかかろうとした瞬間、武人は迷うことなくハリセン握り、やせ神に向かって構えた。振りかぶったその時、肥満神は再び駆けつけ、坊主にBB弾を発射するエアガンを向けて構え出した。3発撃ち、頭に全弾命中。 「パチン! パチン! パチン!」  焦った俺は再び、坊主の元に駆け寄り、BB弾の痛みを誤魔化す為、頭にデコピンを思いっきり3発かます。 「パチン! パチン! パチン!」 「痛い! 痛い! 痛い! オイっ!」  坊主は痛がりながら目を開けると、俺にデコピンをされている事に気づき、怒号を上げた。その声に武人とやせ神は怯み、静止した。 「オイっ!」 「すいません。 ちょっと指先が急に痒くなったんで……。 すいません」 「オイっ!」  今度は怒りが収まらず、俺の胸倉を掴んで再び声を荒げる。その様子を見かねた村人の1人が踊りを中断し、割り込んできて一緒に謝ってきた。 「すみません坊さん。 君! さっきから何やってんだ!?」  その村人は坊主に謝った後、俺に向かって注意を促してくる。 「こんな事するなら帰りますよ?」  村人の謝罪もあってか、坊主の怒りが先程より収まり、愚痴るように村人に言ってきた。 「すみません! 村の為にお願いします! 君!もういい加減にして」 「すいません」  その様子を見て、渋々持ち場に戻り詠唱を続けだす坊主。武人とやせ神はただその様を見守るように静止しているしかなかったかのように見えた。 (肥満神(あいつ)の悪戯を誤魔化すんもそろそろ限界や。こっちこそえぇ加減にしてほしいわ……)  そう考えを巡らせながら俺も持ち場に戻った。  改めて、武人は迷うことなくハリセン握り、やせ神に向かって振りかぶった。その一振りが、やせ神の頭に命中し、強烈な音が発生し、やせ神を襲った。まるで一瞬、頭が凹んだかのように見えた。 「パァーン」 「痛イ! 何ヲスル!?」  やせ神は、頭を抱え、痛がりながら苦しげな声を上げた。それでも、彼は必死に立ち上がろうとする。 「貴様ハ何者ダ!? イキナリ変ナモノデ叩イテクルトハ……。誰デアロウト肥満神憑依ノ邪魔ヲスル者ニハ消エテモラオウ!!」  やせ神は、屈辱の念を込めながら身体を分裂させ、2体に増えた。分身したやせ神たちが、武人を睨みつけていた。  武人は言葉を発することなく、ただそのハリセンを握りしめたまま、2体のやせ神を静かに見つめ続けた。やがて、村の広場は緊迫した沈黙に包まれ、ただ風の音だけが響いていた。どちらが次に動くのか、俺は息を飲み、固唾を飲んで見守っていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加