擬態

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擬態

━━━━━━ッ!!  衝撃だった。初めて見た光景に、ワタシの頭の中が真っ白になってしまう。  そんなこと露知らずの奥方は余裕そうに、にんまりと悪戯っ子の表情をする。  どこぞのサキュバスという淫魔に似た、妖艶さを連想させてしまうくらいにだ。 「分かれば良いよ…………、宗一郎。帰ったら、アンタの好物を作ってあげるから。ね?」  その後、子供たちに飲み物あげつつ汗を拭き始める。  それにしても、奥方もまんざらでもない様子で頬に朱を染めているよう。素直に、嬉しいと言えば良いのに…………。 (何を見せつけられているのだろうか…………、ワタシたちは。此処、神社だぞ!?)  胸やけするくらいの夫婦のイチャイチャを見せつけられたワタシは、胃の奥から砂糖という甘味が吐き出してしまいそうになる。  そのくらい、二人の甘い時間。  本殿の中まで、外より暑い〈熱〉が飛んできて、目が焼けてしまいそうになった。  ここまできたら、よそでやれよと言いたくなってしまう。━━━というか、あの二人、こちらの存在に気づいているだろうし。 (この際だから、…………直接文句言ってやろうか?)  そんな邪な思考が出てしまう始末。本来、土地神ならあってはならない考えだが…………。  あの二人の場合は、濃厚なのだ。  目の毒だし、ましてや無垢な子たちの前でやる行為ではない。 (教育上に悪いんじゃないかッ━━━!?) そんなやさぐれた気持ちのまま、隣で今だに沈黙しているお師匠さんに文句を伝える許可を貰おうと声をかけようとした、その時。 「━━━━━━……………………〈アレ〉は、なんじゃ??」  あの夫婦がお礼参りへ来てから、暫くしてからのこと。沈黙を貫いていたお師匠さんの最初の言葉だった。
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