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「…………そんなことが、あったんですね……。その〈子犬〉は、今の話を知って安堵したと思いますよ。助けて貰っただけじゃなく、こちらで少しの間でも貴方たちの所で厄介になったことを、申し訳なく思っていたのですからね……。どうにか恩返ししたくても、どうしたら良いか、とか」
「やだぁ~、お兄さん。そんな沈んだ表情になっちゃって!まるで、当事者みたいな言い方じゃないですか~」
お兄さんの言葉が、あまりにも〈本人〉みたいに感傷的で返答をしてきたので。
気にしなくても良いのに、と思い笑顔で返すと、お兄さんはクスリ、と小さく口元に弧を描く。
「……うちにも、似たようなことがありましたからね。その時は、僕は助けて貰った方ですが。あの時のご恩は、今でも忘れてませんよ。存在が消える、ギリギリでしたからね。
だから、その〈子犬〉の気持ちは分かるんです」
「そうなんですね……。もし、今でもあの子が幸せに生きていたらまた会いたいなぁ、と思うばかりです。あ、すみません……。余計なことを」
「あぁ、大丈夫ですよ〜!もし、その子が今でも生きていたら。ーーまた、会えますよ」
「ーーッありがとうございます!それにしても、お兄さんも元気そうで良かった~!そういえば……お兄さんが此処に来るのって、この六月十日だけですよね?」
「え……、まぁ、そうです……ね。ハハハ……」
「もしかして、短期の学生バイトですか??もう、十年以上も配達に来ているから学生じゃないか!あ、それとも……この時期のみ臨時の……」
「━━風羅、他の連中は?」
ここで、海里兄さんの一言で配達のお兄さんとの会話が中断される。
普段だったら、会話に横から入らないのに……めずらしい。
まさか、嵐みたいに場の空気読めないポンコツ行為をしてくるなんて……!もしかして、私が彼氏と都内で同棲するようになったから……
━━━━KY言動が伝染しちゃったッッ!!!?
━━え?ウソでしょ⁉
ただでさえ。同棲前に、突然帰宅してきた嵐の言動で彼氏を困らせたりしてさ。
一番最悪だったのが……
〈猿堂からシゴトのお礼用に【風羅の使用済ブラジャーをくれ】ってlineで要望きたんだよな。だから、一時的に取りに帰ってきただけだから、俺のこと気にしなくて大丈夫〉
しれっとナチュラルに言われ、普通に私のお気に入りのブラジャーを鷲掴みにし、持って行こうとした事があった。
━━なので、アイツをフルボッコにした後。
何回目か分からない、〈突撃!臨時講習〉で女性下着について教えた。主に値段とか、値段とか、値段とか。
だって、死活問題だから尚更口うるさくなっちゃうよ!主に経済面は。
まぁ教えたのは、良いけどね……
まさか、━━━━仮同棲中の彼氏が離れたところで参加していたことに気がつかず……だったんだよね。
おかげで、私は彼氏から痴女のレッテルを張られた。………たぶん。
彼氏には、変に気を使われてしまい……。嵐には、
「いやぁ~~~~。やっと、風羅の授業ごっこから解放されたぁ。俺、チョー頑張った!さて、チューハイとチーカマで一服するかぁ」
と、反省の色なしで零される始末。
そんなこんなで、臨時講習の三時間が無駄の時間に終わってしまった。
うん。━━もう、やだッッ!!これ以上、人生の黒歴史を思い出したくないッッ!!
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━━いや、待てよ!
海里兄さんのことだ!仕事で数日家を空けていたから、皆の様子が気になったんだろうなぁ。
だって、不協和音みたいな奴らばっかりだからね。
帰ってきて早々、気にかけるなんて……この人は本当に優しい人だ。
これで、嵐と相性が良ければ良いのだけれど、さ。
「え?ん~、取り込み中みたい。宇宙兄さんは、小説の〆切で。くーちゃんは、調理後の洗い物。嵐は、何してるのか知らない……」
「━━━━ッ!?嵐には後で言っておく。それより、今着た荷物を居間に持って行ってくれないか?」
「あ、うん!良いよ……あれ?また来たんだ……」
━━━━ 〈草薙 彦兵衛〉さん。
「中学生になってから、毎年送られてくるだよね〜!……この人、誰なんだろうね?海里兄さん、知ってる?」
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