海里と十二支

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海里と十二支

◇◇◇ 「……父さんの〈遠い親戚〉らしいぞ」   「え、そうなの?初めて知った……。お父さんから、そんな話し聞いたことないや。━━━━……まぁ、いっか」  俺の言葉を信じた、妹。  一刻も早く、話を切り上げたくて仕方なかった。  今は、妹にこの場の席を外して欲しいという考えでいっぱいだったからだ。  それを悟られないように ━━━━ 「あ、そうだ!配達のお兄さん、お稲荷さん食べます?」  何を思ったのか……。閃いたように突然、食事の誘いをする風羅。  そんな妹に頭の中が急遽、困惑一色に染まってしまう俺。  しかも、目の前の相手が〈相手〉だから尚更だ。  焦燥感が加速する中。俺の考えなど知らない妹は、更に言葉を続ける。 「━━あの。さっき、お稲荷さん作りすぎちゃったんです。今日、〈草薙神社〉のお祭りあるじゃないですか。お供え物を作りすぎちゃって……」 「あぁ、そうなんですね!いやぁ〜、実は忙しくてご飯食べる暇無くて……お腹ペコペコなんですよ〜、僕」 「そうなんですねッ!━━良かったぁ。毎年、土地神様にお供えするお稲荷さんなんですけど。お夕飯用も一緒に追加して作ったら……いつもみたいに作りすぎちゃって……お口に合うか分かりませんが」 「お嬢さんの作るお稲荷さんは、ですからね。何個でも食べたくなりますから大丈夫ですよ〜」 「わぁ、嬉しい!それじゃ、用意しますね♬」  〈父さんから、そんな話聞いたことが無い〉と聞かされなかった内容に対して、若干不貞腐れた声色をした妹。  内心、ハラハラした状態になってしまい、俺の背中に一筋の汗が流れる。  こちらのお相手様にお稲荷を食べて貰うことに嬉しかったのか、風羅はすぐに台所へ向かおうと足早に席を外した。  そんな様子を見届けた今。心底、安堵した。  それは、そうだろう……。 ━━そんな人物は、親戚にいないのだから  それに、その送り主は━━〈目の前にいるのだから〉。  
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