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「━━神龍時さん、会議お疲れ様です。お疲れのところ、ごめんさい……。当主権利を、お父様から引き継がれて大変でしょう?最近は慣れました??」
子島との会話が終わって、すぐの出来事だった。
「……お久しぶりでございます、〈巳久利〉当主。お陰様で、皆様のあたたかいご配慮の元。少しずつですが、最初の頃より心にゆとりを持つことができております」
背後からの穏やかな笑顔での声掛け。
その声の主に、子島との会話で和やかな空気が一変する。
そんな空気を察した子島。先ほどまで、熱のある雰囲気を纏っていた空気が沈下した。
今回の会議で、最年長かつ当主歴も長い〈巳〉の本家当主 ━━【巳久利 杏】。
電灯の光で青竹色のグラデーションが入っている艶のある黒髪。よく目を凝らすと鱗が所々存在している。
普段のプライベートでは、髪を結って纏めて〈蛇の鱗〉を隠している、見た目が二十代後半の彼女。
そう、━━見た目は。
実際は、知命の世代である。更に四捨五入すると、耳順の歳の相手。
なので、所作はとても俺らと同じ若いやつらと違って。そよ風になびかれた竹林に似た、静けさな雰囲気を纏っている。
━━━━腹の底が見えない。
相手を気遣うように声掛けしてきた、巳久利当主。
会議が終わり、公主が立ち去った後に。いつものパターンがやってきたと、胃の奥がジュクジュクと痛覚が蝕んでいく中、気を引き締める。
(━━いつもは、相手にしなければならないが。……今回は、急いで帰宅しないと……!)
そんなことを露知らずの相手は、口元に弧を描きつつゆっくりと次の言葉を吐く。
「そういえば……。うちの者が、お宅の次男坊さんにお世話になったそうで。確か……、うちにくる予定だった高額の案件を代わりに片してくれた、と」
━━━━始まった!会議後、恒例の【クレーム祭り】。
不定期に行われる十二支会議は、場所、日時など定期的に決まっていない。
なので、今回の場所も初めての場所だ。
会議が行われる一か月前に、毎度の如くいつの間にか置かれている通知紙で連絡がくる。
それに合わせて予定を調節する。
雇用形態が、現代でいう〈正社員〉だから仕方ない。
先日、猿堂当主が
「━━せっかく、アメリカから帰国したのに風羅ちゃんはリラクゼーションの研修でいないのか……。まるで、見えないナニカで引き裂かれているようだぜ。ここまできたら、ロミオとジュリエットみたいだNA」
と。意味不明なことを愚痴っている相手に、近くにいた未谷当主が
「うわぁ……、童貞すぎて脳みそが枯れたの?アンタ。キッッっも!!老後が怖いわ……」
通り過ぎながら憐れな目で見て、毒を吐いた彼女に俺は、心の中で大きく拍手をした。
妹と宇宙は、【あの件】以来。猿堂当主を毛嫌いをしている。
俺も、あまり好ましく思っていない。
だか、そんな猿堂当主より達が悪いのが……。
今、目の前に立ちはだかっている、巳久利当主。
彼女は一言でいうと……、【クレーマー】。
真面目な話し、ーーしつこいのだ。一つの話題にネチネチと。
だが、内容が内容だから耳を傾けなければならないが。
「おかげで、うちにくる案件が報酬が低いのが多いような気がするの……気のせいかしら?あぁ、嫌味でも苦情でもないのよ。ただ……、みんなも疑問に思っているんじゃないかしら、と思ってね……。
厄除師の報酬って、基本出来高制だから。
気持ちを汲んで質問してみたのよ~、嫌な気持ちをさせてしまったらごめんなさいねぇ」
いつもながら、探りを入れるように遠回しの嫌味。
「これは、貴方のためでもあるのよ。あら、話が逸れたわね!ごめんなさいねぇ、歳を取ると説教臭くなっちゃって……直さないといけないのは承知してるけど……」
世の中……
〈これは、貴方のためでもあるのよ〉という言葉を吐くヤツほど、━━たいてい自分ことしか考えていない。
こういう奴は、標的を自分の都合の良いように動いて欲しいかつ、他人に不快を与えないように良い人アピールをする。
余は、利用しているのだ。
本当に相手のことを思っているなら、まず……
〇人前で恥をかかせない言動をする
〇アドバイスは、要点だけ伝えて時間を短縮させる。
〇注意点を伝えた後、今後の改善点の意見交換をする。
など、優秀な人がしていることが多い。
目の前の彼女は、どれも当てはまらない。
〈巳〉の血縁なのか、彼女本人の性格なのか……、逃がさぬように言葉で執拗に攻撃してくる。
「それと、お宅の高額報酬案件を手に入るタイミングが良すぎる件なんだけど……」
「わたしも、わたしも!被害者なんですぅ!!この間、下品ひつ……じゃなかった耀ちゃんとペアで案件処理した時なんですけどぉ~」
ここでネチネチと蛇のように一歩一歩、俺を追い詰めてくる巳久利当主の言葉が、ここで消えた。
というより、ブった斬られたのだ。
突然、会話の乱入してきた相手を一斉に視線を変える。
(━━確か、〈戌〉の本家 戌塚 咲 という当主見習いだったような……?)
一斉に注目の的になった彼女は、周りの視線を気にしていないのか。巳久利当主を差し置いて、更に言葉を続ける。
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