あれから十年後の彼らは……

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 凛とした透き通った、女性の声色。  新たな声が加わり、空間内の空気がまた一つガラリと変わる。  それは、俺の背後からだった。 「アンタ……、さっきから言いたい放題言ってくれて……!私を巻き込まないで頂けます?戌塚さん」 「未谷(ひつじたに)当主……」  思わぬ救世主に、声が出してしまう。  相手は俺の横を通り抜けながら 「大丈夫よ。今日、早く帰らないといけないんでしょ?風羅ちゃんから聞いているわ。任せなさい」  と、俺にしか聞こえない声で小さく呟く。  やはり、この人はーー上に立つ人間だ。  と、俺が胸の中で打ち震え、感服する。  そんな中。不敵の笑みで吐いた未谷さんは、すぐに注目の的になっている相手へ視線を鋭く移す。  ダックグリーン色が混じった茶髪を、左耳上に緩めのお団子ヘアーが特徴の彼女。  ゆらりと長めの後れ毛が、歩く速度に合わせて緩やかに揺れる。   そして、キリッとした切れ長の目つきの中に、ルビーのように美しい瞳。加えて唇の左下の黒子。  端正な顔つきに妖艶さを感じさせる雰囲気の俺より五歳年上の彼女。  現代の傾国の美女、と一部の厄除師男性から人気がある未谷さんは、妹の恩人である。  ニ年前。妹は、前の職場で複数の男性客からの性的被害を受けた。  精神的病んでしまって外へ出るのも恐怖になり……結果、引きこもってしまったのだ。  嵐の話しによると。丑崎さんの紹介の流れで、ーー  その時に、メンタルケアをしてくれたのが ーー未谷さん。  だから……この人には頭が上がらないし、感謝しかない。  十代後半で、当主になり。二十代で前半に、表の職業の方では独立し、今は弁護士をしているらしい。  なので、俺の中で尊敬している人の一人。  もちろん、今不在の丑崎 なつりも感謝している。  ただ……。アノ難儀な性格が無ければ……。と思っている。 「え〜、なんのことか分かりませんがぁ〜。わたしぃ、耀ちゃんのことを思って言っただけなんですけどぉ〜」  先程より甘ったるい口調をし、ぶりっ子し始める戌塚さん。  男性社員に媚び売っている、OLのドラマシーンを見ているようで……、何故だか分からないがこの人そのものが可哀想になってきた。  本人の生まれ持った性格だから、仕方ないけど……。 「そうなんですね、戌塚当主見習い。それは、失礼しました。私は、その〈愛称の件〉に関しては何も思ってないので大丈夫ですよ。 寧ろ……貴方の方が気にしていらっしゃる、とお見受けしましたが?」 「え〜、そうなんですかぁ?耀ちゃん、話し方がいつもと違うねぇ。普段だったら、『二重人格駄犬』とかぁ、『アンタと大親友扱いされる事態、黒歴史!!』とか〜酷いことを口にするのにぃ」 「…………戌塚さん。仰っている意味が分かりませんが、此処は十二支会議場ですよ。言葉を選んだ方がよろしいんではないですか? (この、媚び売り(いぬ)!私をダシに使ってんじゃないわよ!!)」 「あ、ごめんなさーい!此処にいる皆さまに耀ちゃんのお茶目で可愛いところがあるって、知って貰いたかったんですぅ〜。耀ちゃん、気難しいって印象が強いって他の人から聞いたのでぇ。私、心配しちゃって。(そんなこと、誰も言って無いけど)」 「………それは、どうも。それより私は、だけじゃなくて、〈見習い中の〉貴方様の軽率な発言が心配で堪りませんわ。 今だに当主見習いだと、緊張してしまうの分かりますが……。見習い中ならそれなりの対応された方が良いかと思いますよ? (だから、アンタいつまでも当主見習いのままなのよ!駄犬女ッ!!)」 「お気遣い痛み入りまーす♪未谷当主☆私の事より、ご自身のことを心配した方が良いんじゃないですかぁ〜? (何言ってんの!?この下品ひつじ!!私を利用して冷静ぶってんじゃないわよッ!! ほんっと、昔から《私は、アンタと違って大人なんだから》って面で対応しやがってッッ!! しかも、何回も〈見習い中〉って格下呼ばりをしてさッ!!) なんかぁ〜性格が災いしちゃって、彼氏さんと絶賛喧嘩中って聞いたんですけどぉ〜〜♬」  その言葉で、未谷さんの癪に触ったのか。  ビキッ……、と左のコメカミに青筋を小さく立て始める。  俺の視界にチラリと入った瞬間、冷静に対応していたと思う彼女から、怒涛の空気が溢れ出す。  
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