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先程の不敵の笑みが全く無い、未谷当主。
完全に、プライベートモードになっていた。それは、相手も同じようで完全に睨み合い真っ只中だ。
この女同士の口喧嘩に免疫の無い、俺。
それは、周りにいる男性当主も同じようで……あたふたしている。
ここで観るに見かねた、猿堂さん。
「ーーおい、お前ら!もう、いい加減にしろ!!俺たち、良い大人なんだし。此処にいる見習いたちのことを考えて……ーー」
その言葉を耳にした未谷さん。
感情を露わにしつつ、何を思ったのか髪留めを解く。
外された瞬間。緩やかなウェーブ状である艶のある髪が、軽やかに舞い重力に沿ってスラリと流れ落ちる。
すると、シュルシュル毛先が後頭部へ上がって自動的に集まり、一つの団子に纏まる。
これから、何が起こるか分からないまま。
空気が殺伐と化した室内。今は、彼女の行動に息を呑む。
数秒後。団子になっている髪の中心部から、蕾が生まれた。
そして薄桃色の蕾が一枚一枚と開くと。
それは、ーー水蓮の華だった。
透明感のある淡い桃色をした花弁。
今でも開花する様は、成長をモニターで観ているようで神秘的な一時が流れる。
この状況におかしな話だが……胸の奥からじんわりと、感動が生まれる。
だが、この気持ちは長くは続かないモノだ。
「ーー五月蝿いわよ!バカ猿ッ!!急に湧いてくんじゃないわよッッ!!」
その言葉と共に、水蓮の葉から蔓がゆらりと顔を出す。後、槍の如く一直線に。猿堂さんへ目掛けて、
ーー頬を引っ張いた。
「ーー痛ッッてぇぇええッ!!何すんだよッ、未谷!?というか、冷静になれよ。な?」
いきなり、未谷家の特殊能力である〈植物〉でビンタされた猿堂さん。
かなり赤く腫れている頰を右手で押さえながら、左手で〈待った〉の合図を慌てて出している。
それでも、修羅の形相になっている未谷さん……。もう一発、蔓でビンタをする。
「どきなさい!バカ猿。そこを退かないと、もう一発喰らわすわよ!!」
もう、昔ドラマでやっていたSM バーのやり取りを観ているような感覚。
それでも、最悪な状況は津波の如く連続で襲ってくる。
「そうだよッ!耀ちゃん!!いくら、彼氏と上手くいってないからって……。こんな事しても、その〈ひん曲がった性格〉と〈まな板並みの貧相な胸〉が治るわけじゃないから。冷静になって☆」
「ーーッ!?ちょっ、戌塚ちゃん!?な、何を言ってんの?ねぇ!?
それだと、アイツに火に油を注いだだけだからァァアア!!」
「えぇ〜、ごめんなさーい☆耀ちゃんを慰めようと思ってぇ〜(嘘)ーーというか、〈ちゃん〉付けするのやめて下さい。……気持ち悪いし、セクハラだから。気安く呼ぶんじゃねーよ(ボソッ)」
「い、戌塚ちゃんッ!?え、ちょっと嘘だろ!?今の俺の空耳だよね!?後輩を庇っている俺に言ってる内容じゃないよね?」
「猿堂当主、頑張って☆尊敬してる!って言っただけですよ〜(嘘)」
戌塚さんから、〈気持ち悪い〉発言をされたのが相当ショック受けたらしい、あの人。後半から、半泣き状態での会話になっていた。
そんな猿堂さんの言葉に、素知らぬ顔をする彼女。
正直な話し……、観るのも聴くのも疲れてきた。
確かに妹の風羅も似たようなことはあるが……、だいたい一通り言った後はスッキリして終わることが多い。
こんなネチッこい展開になるとは……、予想外であって。というか、初体験であって。
どう対処するべき、本当に分からない。
そろそろ、解放して欲しいくらい疲れた。主に、ーーメンタル面が。
それは、俺だけじゃなくて……周りの者たちもだ。
参加していた十二支の数人は呆れたのか、いつの間にか消えていた。
(ーー逃げたな。あの人たち……)
と思っても。こんな人生の無駄になっている今の時間に対して、退席したいけど……。
恩人の未谷さんを残して席を外すわけにはいかないし……。どうしたものか……と思惑している中。
更に、この場面より悪化する出来事が起こる。
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