あれから十年後の彼らは……

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 ー ピンポ━━ン……!   突然の高いキーの機械音。  それは、玄関からの呼び鈴だった。この間の悪いタイミングで、自然と言いかけていた言葉が途切れる。  誰かが、対応してくれるだろうな、と思った私は言いかけた会話を、再度しようと口を開こうとした。 「ねえ、お客さんが来たからさ。誰か出てよ!僕、二時間以内で担当者に原稿のデータを送らないといけないんだからさッ━━!!」    声の主は、此処一階からではなかった。  あまりにも声が遠いからだ。そうなると、玄関を入ってすぐ右斜め前に設置されている二階行きの階段か、あるいは同じく玄関入ってすぐ左側通路先の客室なのか、になる。  声の主は、六つ子の次男坊 神龍時 宇宙。  私の兄である。  彼の職業は〈小説家〉。デビューしてから二年の間に二桁分のミステリー、現代ファンタジーの書籍を出している。  でも、取材という理由で勝手に遠出することがある為、契約している出版社の担当者さんを困らせていると風の噂で聞いた。  最近では、【中国人マフィアの跡取り息子×世間知らずのヤクザの養子男性】の十八禁BL本を執筆したらしい。  いつもと違うジャンルで書いたのが、今回初めてなのでどういう風の吹き回しなのか理由を先日聞いたら 「うん。アイツ、〈文章の物語は絵の物語より味が無いし心に響かない〉って屈辱的なことを言ってきてさ。ムカついたから、僕は!実力をみせただけ、だよ!」 とのこと。 (どうやら、その人は宇宙兄さんの穏やかな見た目〈営業用〉で判断したんだろうな。そして負けず嫌いを発揮した宇宙のプライドに、悪い意味で刺激を与えて……この結果か) と、静かに察した。 (それにしても……表紙に載っている、この中国人マフィアの跡取り息子のイラストさ。私の彼氏に……似ているような?)  不思議な感覚を覚えた私は、イラストを描いた人の名前を確認すると絶句した。 「え……、〈ちゅー鼠〉って。確か……子島、くん??」 (そういえば、子島くんってイラストレーターを本業にしたいって言ってたんだよね!凄いなぁ……、実現しちゃうなんて!!私も、好きな事を本業にできるように頑張らないとッ!!)  歳が近い年下の子が実現させた夢の一部に触れた私は、感動し熱くなった気持ちで子島くんが描いた挿絵たちをパラパラと見る。  中身を何枚か観た数分後、前向きになっていた激っていた気持ちが鎮火してしまった。  うん……。だってね、なんというかさ……生々しいんだよね。ーー全部が。  特に、当て馬役がさ、ね。三番目の兄の嵐に似ている。もうさ、リアルっぽくて。  浮気の証拠写真を見ている妻の気分になってしまった、私がいる。  あれから、暫く。彼氏と接する度に挿絵を思い出しながら、複雑な気持ちで過ごす日々を送ったのは言うまでもない。    ーー話しは戻すが。  世の中には、人の一部のみを見て〈自分より上か下か〉と判断をする人がいる。  たいていの多くは、そのパターンが大半だ。  これは、自分自身のメンタルを〈劣等感というサバイバルナイフ〉から守るために自己防衛で生まれた一部だと思う。これは、あくまでも今まで接してきた人間関係で感じてきた日常の一部でのこと。  でも、それは浅はかであり、愚かな言動だと私は常々感じる。  これは、父方の祖父が言っていたことだが。  木を森に隠すように、人間も〈本性〉を隠して生きている。  例えば。これは二年前、職場のオープニングスタッフの研修時。接客業のレジ研修のことだった。  その時は、スタート地点は皆同じだからだったからだと思う。  研修三日目時に、レジ操作が得意な人が本部からきたレジ担当の講師から褒められた時だった。  その人は講師から,教える役に一時的に抜擢され、レジ操作が不出来なスタッフを教える流れになった。  教わる立場になった彼女は、優越感が溢れ自分はシゴトできるアピールをし始めた。仕事できない者からしてみたら、うっとおしい気持ちはあったが教わる立場だったので合わせるしかなかった。  それを心地良くなった相手は承認欲求が大きくなり、過去の武勇伝を語り始めるようになった。  そんな中、一人だけ属さない者がいた。                      
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