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壁に耳があると気が付いたのは、今朝だった。
仕事でくたくたに疲れて帰ってきて、化粧もそこそこに眠りについた。
あの時、昨日の夜に私が寝る直前には、何もなかったはずだ。
今は、ただの白い壁紙にひとつだけ耳が付いている。
誰が、何のために、いつの間につけたのか?
そうはいっても、このままにしたくもない。
オモチャだと思い、剥がそうと私はその耳たぶを引っ張った。
「いてっ」
聞き覚えのある声が私の部屋に響いた。
数か月前から、SNSで私のことをずっと追ってくるストーカーだ。
「いつまでも君と一緒にいたい」なんて、ボイスメールをしつこく送ってきたので、怖くなりブロックしたのを思い出す。
怖かったので、そのまま触れず即日、耳栓を買ってきてその耳たぶに突っ込んだ。
これで、きっと大丈夫だろう。
安心して眠った翌朝、今度は壁に目が生えていた。
信じられない。いったいどういうことなのだろう。
ひとまず壁の目は紙を貼って隠す。
これで大丈夫なはずだ。
そう思っていたのに、翌日には足が、そして手まで生えていた。
もう限界だと思って、私はその部屋を即日引っ越しすることにした。
新しい部屋はすぐに決まった。
会社からは少し遠いけれども、広い部屋。
白い壁……
そう思っていたのに、耳が生え始めた。
次は目が、今度は手足が。
私は慌てて引っ越し業者が運んでくれた段ボールから包丁を取り出す。
ザクリと耳を、次に目を切り裂く。
もうこの時点で私の悲鳴か、このストーカーの悲鳴かはもうわからなかった。
赤くなる床をものともせず、次にのこぎりを取り出すと手足をやっとの思いで壁から斬り落とすことに成功した。
私は思わず床に崩れ落ち、そのまま真紅に染まった壁にもたれかかった。
ピロリン、とスマホが鳴りボイスメッセージが勝手に再生される。
「どうして?君と一緒にいたいのに」
思わず身震いをして息があがる。
スマホを投げて壊し、ひとまず何か飲もうと床に手をついた。
「いてっ」
何がと自分の左手をみると、そこには口が生えていた。
まさか。
「引っ越したよ、ずっと君といたくて」
ボイスメッセージと同じ声。
私は思わず、右手に持っていたのこぎりを強く握る。
私の悲鳴か、ストーカーの悲鳴かは、もうわからなかった。
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