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鎮魂歌
君がいなくなった世界は相も変わらずで、世の中は混沌と無秩序と混乱がはびこっている。
僕は君に会いたいと心から思う。
あの男を殺めた後で、僕も君の世界に行こうと何度も思ったんだ。
でも、それだと君の願いが叶えられない。
だから、君のために我慢をした。
走る大きなトラックを目前に、僕は何度も立ち止まった。
どうしても、死ぬことができなかった。
僕は君のことが好きだからこそ、あの日助けられなかった君を、僕なりの方法で助ける方法に気づいたんだ。
社会人になった僕は自家用車の大型トラックに乗り込み、アクセルを思い切り踏み込んだ。街をぐるりと回るのが日課だ。
そうして僕の目の前に、今日も社会に絶望した人間が舞い込んでくる。
この人も、きっと転生したいのだろう。
あの女性も、この男性もだ。
いつか君を殺した男、あいつを僕のみずからの手で葬ったのは、理由がある。
あの男を君の元へ送るわけにはいかなかったんだ。
けれど、それ以外の人間だったら、きっと君の世界での役に立ってくれるはずだ。
また一人、悲鳴をあげて舞い込んできた。
大丈夫、君たちの望みは叶えよう。
僕が喜んで送り届けよう。
トラックで人を轢いても無罪になる。
こんな狂った世の中よりも、こんな死んだ世界よりも、きっと新世界の方がいいだろう。
転生した君の元に、僕の深い愛情と轢いた人々は今日も届いているだろうか。
そして、聴こえているだろうか?
そして送り届けた人たちがあげる、この悲鳴の鎮魂歌が。
そうして、僕は違う世界で生きる君のために、より強くアクセルを踏み込んだ。
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