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エピローグ3
摩耶目線。
「久しぶり!お姉ちゃん!」
「うげっ……。」
ある日の放課後。
突然の来訪者のせいで、私は盛大に顔を顰める。
あいつ……もう二度と会えないかもしれないとか言っときながらなんでナチュラルに学校で待ち伏せさせてんのよ……。
「彼はもう関係ありませんよ。」
そう考えていたところでそう言って口を挟んだのは真希さんだった。
「あんたも!?」
と、言う事はアイツも!?と身構えるも、それらしき姿は無い。
「ってもう……関係ありませんって……。」
「えぇ、もう離婚しましたから。」
「……は?はぁぁぁぁぁ!?」
驚きで声が大きくなり、周りに注目されてしまった。
「まぁ……急にこんな事言われたらびっくりしますよね」
「あ、当たり前でしょ……。
な、何があったのよ!ま、まさかあいつまた……!」
「いえ……私から別れを告げました。」
「……ますます意味が分からないんだけど……。
どっちみちあいつがまた不倫したから……?」
「そうではありませんよ。
自分で言うのもなんですが、あの人私に相当惚れてたみたいですから。」
「っ……!」
それはそれで怒りと同時に胸もズキリと痛む。
どうしてその愛情を、いつまでもお母さんに向けてくれなかったのだろうか、と。
「でもならなんでよ?まさか私に同情でもしたわけ……?」
「それも無いとは言えませんが。」
「そんな事されても今更……!」
「でも一番はあの人のそう言う異常性に気付けなかった自分が許せなかったから…ですかね。」
「っ……まぁそれは……確かに。」
あいつは私達との家庭を築きながら裏でも別の家庭を築いていた。
そして子供が出来たと知った途端に、あっさり片方を切り捨てた。
それを何の悪びれもなく、あまつさえ、片方の娘を自分が選んだ家庭に引き込もうとまでした。
正直マトモな人間の思考ではないだろう。
「本当はずっとこうするべきだって分かってたんです。
でも勇気が出せなかった。
でもあなたとこうして出会って、彼とハッキリ決別した事を彼から聞いて、私もこのままじゃダメなんだって、そう思えたんです。」
「そう、なんだ。」
彼女も彼女でずっと思い悩んできたのだろう。
そう言いきる姿には強い意志が感じられた。
「で、でも…そんなにすんなり別れられたの?」
「えぇ、モメましたよ。
なんなら今も付きまとわれて困ってます。」
「えぇ!?」
これにはこちらも流石にびっくりさせられた。
「でも良いんですよ。
あなたが彼とキチンと決別したように、私もこれからゆっくり彼と決別していきますから。
いざとなったら警察に接近禁止命令でも出してもらいます。」
「うわぁ……。」
「えへへ、お姉ちゃんお姉ちゃん!」
「だ、だから私はあんたを妹だと認めた訳じゃ……。」
「じゃぁ私、お姉ちゃんに妹って認めて貰えるように頑張る!」
「いや……だから……。」
「摩耶……?」
どうあしらうか困っていると、不意によく知る声が私の名前を呼ぶ。
「お、お母さん!?どうしてここに……。」
「私が呼び出しました。」
「え...?」
「あなたが彼の……。」
「はい、本当にすいませんでした。」
真希さんはそう言って頭を下げる。
「今更謝れても困りますし……。
あなたは彼が既婚だと知らなかったのでしょう?」
「ですが事実は変わりませんから。
ここに三百万あります。
慰謝料として受け取ってください。」
そう言って真希は分厚い封筒を差し出す。
「いえ……そんな!知らなかったあなたからこんなの受け取れません……。」
「良いんです。
これぐらいで許されるとは思っていませんが、その辺りはしっかりしておきたいので。」
「で...でも。」
そりゃこんな大金をいきなり渡されても困るよね……。
理由も理由だし。
「それに、真理はお姉ちゃんが大好きみたいですから。」
「いや…だからそれは…。」
「摩耶妹欲しがってたものね。」
「そりゃ…でもお母さんは良いの…?あのクソ親父の子なんだよ?」
「まぁ…良くはないけど…。」
「でしょ?なら…」
「摩耶はどうしたいの?」
「私は…。」
迷っていると、不意にお母さんが私の頭を撫でた。
「私は…すぐには受け入れられないと思う。
彼女を娘だとは思えない。
でも摩耶には摩耶のしたいようにしてほしい。
もし私の事を気にして拒否してるんなら、その必要はないのよ。」
「で、でも。」
「前に言ったでしょ?あなたが幸せなら嬉しいって。
だからもし、あなたがあの人と暮らす事を選んでいても、摩耶が幸せなら私はそれで良いの。」
「そんな、そんな道選ぶ訳ない!私にとってあんなクソ親父なんかよりお母さんの方がずっと大事で…大好きだから!」
まさかお母さんもクソ親父が私に言いよっていた事に気付いてたなんて…。
「その言葉が聞けただけで充分私は幸せ。
ありがとう、摩耶。
だから摩耶、私がじゃなくて自分が、どうしたいのかを教えて?」
こんな時にだってお母さんは気を使ってくれる。
それが嬉しくもあり、見ていて痛々しくもある。
「私は…分からない。」
「そう…。」
「だって…急にそんな事言われてもやっぱりいきなり受け入れられる訳ないし…。
今までだって他人だった訳だし…それに…妹なんて出来てもどうしたら良いか分からないし…。」
「別に、すぐにじゃなくても良いのではないですか?」
迷っている私に今まで黙って聞いていた真希さんが口を挟む。
「あ、あなたも一切遠慮無いのね…。」
これにはお母さんもちょっと引いている。
「先程も言いましたが私もすぐに許してもらえるとは思ってませんから。
だからこれから、またこうして真理を連れてたまに会いに来ても良いですか?
このお金はその迷惑料って事でも良いので。」
これにはお母さんも微妙な反応をしてるものの…すぐに目線を私に向けてくる。
それを受けて、私は考える。
お母さんは言ってくれたんだ。
私はどうしたいのかと。
「たまになら…ね。
でも毎日学校で待ち伏せるとかやめてよね!?
あと無闇やたらに抱きつくな!」
「お姉ちゃんありがとう!」
嬉しそうに抱き着いてくる真理。
「だ、だから抱きつくなっての!まだあんたを認めた訳じゃないんだから…!」
今はこれでいい。
自分がどうしたいのか分からない。
でももしかしたらいつかは受け入れられる日が来るのかもしれない。
今は考えられなかった事も、感じられなかった気持ちも、想いも、これから先変わって行くような事があるのだろうか。
実際、出会ってすぐの私は、今こうして中川と付き合うだなんて考えもしなかった。
なんならちょっと嫌いな部類だったのに。
だから以前の私ならきっと有り得ないと切り捨てるだろう。
でもなんだかんだで私はあいつを好きになって、今こうしてここに居るんだ。
先の事は分からない。
でもそれでいいんだ。
きっとどうなっていても、それなりに幸せにやれてるだろうと思えるような親友も、家族も、そして恋人だっている。
だから今はこれで良い。
今は、この時間を精一杯楽しんでみようと思う。
初めて人を好きになる事を教えてくれた、たまにムカつくけど、どこか憎めないアイツと一緒に。
「なんで電話に出ないのよ!」
「悪い、寝てたわ。」
「やっぱりか!?」
…まぁたまに…いや結構喧嘩する事もあるだろうけど…。
色々あったけど今私はちゃんと幸せだって自信を持って言える。
「って!電話中に寝るな!!全く…。」
今度はちゃんと、本当の気持ちに気付く事が出来たから。
もう二度と見失いたくない思いを見つける事が出来たから。
fin
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