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一太刀
飢え、乾き、貧困のど真ん中。プライドの姉も身を売りに行って消息がない。
彼は最後のカビの生えきったパンをにらむ。青カビのそれは彼に食うなというみたいだ。ちょうど自分の青ひげのようにね。
彼は思い切ってかじった。ガツガツと喰らい尽くした。今は乱世。剣一本で出世ができる。一番近く、一番位の高い帝国。
プライドは帝国軍に士官することにした。
「おい! 止まれ!」
「帝国軍に入れてほしい」
「は?」
門兵が間抜けた表情を見せたが、次第に険しい顔に変貌した。
「入隊は順次募集をかけている。その時に来い」
「それじゃだめなんです」
「追い出すぞ」
もう一人の門兵に声をかけ、二人がかりでプライドをふっとばした。
彼は地面につき、唇に血を流した。
それはふっとばされたからではない。悔しさで噛み締めたのだ。
「なんだ、その目は。お前ごとき殺したとてなんでもないのだぞ」
クソクソクソ。俺の何が気に食わない。何も持っていないからか。それともこの足か。
そう、プライドは右下肢機能障害で歩くのに杖がいった。
天よ。貴様は俺が憎いのか? 恨みでもあるのか?
「おいおい、そうお天道様を睨むなよ。ここは帝国だぞ」
「ん?」
「あ、大将軍!! 貴様恐れ多いぞ!! 下がれ! 下がれ!」
「まあ待て」
大将軍と呼ばれたのは帝国の大将、ダイス・ブレイドだった。彼は神出鬼没で有名だった。わざわざ末端の兵士の様子も見に行くほどだった。
「貴様、名は」
「プライド」
「ほう、全てに飢えた顔をしている。顔は履歴書だからな」
ちょっと待て、ダイスが門兵に口添えし、門が開かれた。
「ふん。俺達はお前がくたばってもいいと思っているからな」
門兵は吐き捨て、プライドは帝国の門をくぐった。
案内されたのは帝国軍の訓練場だった。
「話は早いほうがいいだろう。ちょうど、中将のギフがいる。こいつにこの剣で一太刀浴びせろ。倒せとはいわん簡単であろう」
プライドはギフを知っている。一方的に。鬼神とまで恐れられる、将軍だ。恐らく強さ的にはダイスを越える。渡された剣を構える。「フン」ギフは構えていなかった。が、圧で押された。プライドが止まり、ギフが薙刀を振りかぶった。
プライドはもとからギフを狙っていなかった。一方の杖で薙刀をそらし、剣で一太刀、否一突き食らわせた。「コイツ!」
ギフはもう一度薙刀を振るうが、ダイスの一喝で退いた。ギフが消えた。
「合格だ」
ダイスはそれだけいい、プライドに剣をそのまま与え、去っていった。
先ほどの門兵が近寄り、「お前を認める。プライド。お前はもう仲間だ」
俺がほしいのは信用でも仲間でもない。
いつか、この飢えを満たして見せる。
そう思いながら、先ほどのギフの血がついた剣をなめた。
この味だ。勝利は鉄の味だ。
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