指差す方のありさんと白い靴下

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 五月晴れが広がる平日の午前中に三歳の息子と散歩がてら近所の公園にやって来た。 ーーーーー 「おかあさん、みてみてー。ありさんなんかはこんではる」 息子が指差すところを見ると、小さなありがからだより大きな何かをヨタヨタしながら運んでいた。それも列を成して。 「ありさん、大きいの運んだはんなぁ」 「うん。どこもっていかはるんやろ?」 「うーん...お家かなぁ。ありさん見てたらどこ行かはるんか分かるし、見といてみ?」 「うん。みとくわ」 その後一言もしゃべらず、しゃがんでひたすらありを観察する息子。そしてちょっとだけ離れて、観察している息子をしゃがんで観察する私。息子のありを見ている表情は真剣そのもので、目乾くで!と言いたくなるくらい瞬きもせず必死の様子。 ーーーーー 「ありさん、あなにはいっていかはって、あなからでてきたら、もってはるありさんにしゃべって、あるいてしゃべって、あるいてはる。なにしゃべってはるんやろ?」 と聞かれて...うーん、困った...何喋ってはるんか?そんなん知るかいな...。 「えーっと...ケガしいひん様にとか、気をつけて運びやーとか、がんばりやーとか?」 「そっかー。ありさんやさしいなぁ...おかあさん、とらっくどこにとまってるんやろ?」 「えっ、トラック?」 「うん、とらっく。たくさんあなにはこんではるの、とらっくではこんできてはるんやろ?」 「...あっ、もしかして、宅急便の事かな?」 「たっきゅうびん?」 「お荷物お届けに来ましたー、ハンコぽん!」 「はんこぽん、ちゃう」 「ちゃう?」 「うん。しろいくつしたみせてくれはった」 「うーん...白い靴下?...あっ、引越しな!...よう覚えてんなぁ、そんな事。丁度一年前、お父さんのお仕事の都合で引越してきたもんなぁ...」 「うん。おかあさん、とらっくどこ?」 「えっ?ト、トラック、か...」 私は、うーんと唸りながら公園の前の道路を見て、トラックが走っているか?止まっているか?きょろきょろ探す。息子もきょろきょろ探している様子。 「あっ!おかあさん、とらっくあったー!」 と急に大きな声を出して、走り出した。 「あっ、走ったらあかーん!止まりー!危なーい!」 と言いながら息子を追いかけようとしたら、砂場の前で立ち止まった。その様子を見ながらゆっくり近づく。その間息子は砂場に入って迷いなく歩いていく。そして見つけたのか立ち止まってしゃがんで少し掘ってる様子。 「見つかった?」 と息子の横に座って聞いてみると、 「うん!ほらっ!」 と言って、嬉しそうに笑って、砂のついた手で砂まみれのトラックのミニカーを見せてくれた。
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