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色々と考えていると気づけば家に着いていた。
「あ、そうだ。買い物のお金、私住まわせてもらってますから、せめて食費ぐらいは払います」
車を降りて買い物袋を両手に下げた近藤課長は「払わせるわけないだろう。希子の給料の3倍は俺はもらってるんだ。ワガママで悪いが、生活費はすべて俺が払う」突っぱねられた。
「いや、でもそれじゃあ、申し訳が立ちません」
「夫婦は助け合っていくものだ。だから気にするな」
夫婦、夫婦って……リアリティーを持たせるつもりだろうけど、私にとっては借りを作っているようでモヤモヤしてしまう。
しかし実際は、食費さえも払える余裕はない。
仕方なく私は綺麗に整理された大理石のアイランドキッチンでエプロンを付ける。
「何してんだ?そのエプロン、俺の」
「わかってます。私、自分のエプロンは持ってないので借ります」
「そうじゃない。夕飯は俺が作る。包丁でケガでもしたら……嫌だ」
「馬鹿にしないで下さい。小学生のときからずっと料理してますから、まずありえません」
近藤課長は目の前まで来て、両手を私の肩に置く。
「馬鹿にしていないし、できないとも思っていない。ただ、0.1パーセントでも可能性がある限り、落ち着いていられない」
「でも、住まわせてもらってますし、生活費まで助けてもらってます。だから、これぐらいはします」
彼は首を横に振り「他にも理由がある。俺の料理を食べて欲しい。腕には自信があるんだ」強いまなざし。
こうなったら、この人が引き下がる訳がない。
「……わかりました。でも、何が何であろうと、明日は作ります。交代制はどうですか?今日は私が引いたので、次は近藤課長が条件を飲んで下さい」
大きくため息をついて「ああ、飲むよ。馴れないキッチンだろうし、くれぐれも気をつけてくれ。それと……」
一度、話を切って間を作る。
「それと、何でしょうか?」
「近藤課長じゃない。陽之季だ」
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