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3月 ①
望月 希子、社会人10年目、29歳。
警察学校での地獄の10ヶ月を耐え、晴れて卒業。
法律や警察に就くにあたっての基礎知識、鑑識技術や逮捕術を覚えるだけの頭脳と剣道や柔道ができる体力。頭と体、どちらもハイレベルでこなさなければいけなかった。
10年もの間、工場の生産ラインで働いていた慣れもあり、脳は乾いた紙粘土のように固く、体力はすぐにガス欠しひどい有り様。
そのため必死で周りについていき、気づけば卒業。
配属先は警視庁の本庁と昨日聞いたばかりで、まだ心の整理ができていない。
今さらだけど、よく受かったなと改めて感じた。
警察官採用試験の面接で志望動機を尋ねられた際、『テレビで警察のドキュメントを見てカッコよかったからです』なんて、思い出すだけでも恥ずかしい。しかも堂々と、高らかに口にした。
普通は社会のためとか、責任ある仕事がしたいとか、言うべきなのに。
東京はこんなに住みづらいなんて、想像以上。
九州の田舎中の田舎から越してきて未だに慣れない。
色々と理由はあるけれど、一番は今の状況。
前職はシフト制で出勤ラッシュなんて関係なかったけれど、警察官になってからは小さい箱の中にぎゅうぎゅうに無理やり詰め込まれ揺られる満員電車に変わった。
畑や田んぼしか無かった地元とは別世界。
しかも今朝は小雨が降っていて、3月になったばかりでも寒く、暖房のせいで湿度が高い。隣の人は間違いなく湿布を貼っていて独特な臭いと蒸し暑さで酔いそうだった。
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