3月 ①

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「う~ん、ちょっと違うかなぁ。体は男で違和感ないし、恋愛対象が男性ってだけ。理解できるかな?」 ユズさんは表情を険しくした訳じゃなく、考えていただけで、嫌な雰囲気は微塵も見せずにそう言った。 差別や偏見は無いにしても、好奇心はあると私は自覚し、嫌になる。 「ごめんなさい。個人的なことなのに……失礼な質問でした」 「別に失礼じゃないわ。刑事としてやっていくなら、聞きづらくても尋ねるのは大事」 器の大きさがまるで違う。 初めて感じる種類のカッコよさ。 透き通るような微笑みをして「今、希子ちゃん、警察の世界では大変だろうなぁって思ってるでしょ?」覗かれる私の顔。 「いえ……あの……はい」 全部読まれている。私のあからさまな表情のせいか、ユズさんが鋭いのか。たぶん、どっちも。 「まあ、ベテランの人たちからは少なからず偏見はあるかな。でも若い人は逆で、偏見はほとんど無い。私としては警察は男だらけで、最高な環境よ。あと、最近はドラマや小説でBL物が多いせいで女性警官からはキラキラした目で見られるの」 「最高な環境……キラキラした目。想像の反対でした」 ユズさんはそう言いつつも、きっと沢山辛い想いをしてきたはず。器が大きいだけじゃなく、ポジティブで話しているだけで気持ちが良くなる。 「そういえば遅れた理由、痴漢に合ったって聞いたけど本当?」 「……本当です」 「もちろん、あそこ蹴り上げてやったわよね?」 涼しい顔でユズさんはとんでもないことを言う。 「いえ、私怖くて……」 「まあ、そりゃそうね。私ならその小さな2つのピンポン玉を砕くぐらい膝を入れてやるわ」 やっぱり男社会で揉まれているだけある。 ふんわりとした優しい雰囲気の中にも、男以上の男気を感じた。 イメージしただけで痛そうな話。実際は痛みがわからないけど。 黙って唖然としていると、ユズさんは「ここは男社会。でもだからって遠慮したり引け目感じたらダメよ。ピンポン玉があるか無いかの違いしかないって思ってね」春の陽射しのようなふんわりとした声質。 ちょこちょこびっくりワードが出てくるけど、それも込めて素敵。
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