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「う~ん、ちょっと違うかなぁ。体は男で違和感ないし、恋愛対象が男性ってだけ。理解できるかな?」
ユズさんは表情を険しくした訳じゃなく、考えていただけで、嫌な雰囲気は微塵も見せずにそう言った。
差別や偏見は無いにしても、好奇心はあると私は自覚し、嫌になる。
「ごめんなさい。個人的なことなのに……失礼な質問でした」
「別に失礼じゃないわ。刑事としてやっていくなら、聞きづらくても尋ねるのは大事」
器の大きさがまるで違う。
初めて感じる種類のカッコよさ。
透き通るような微笑みをして「今、希子ちゃん、警察の世界では大変だろうなぁって思ってるでしょ?」覗かれる私の顔。
「いえ……あの……はい」
全部読まれている。私のあからさまな表情のせいか、ユズさんが鋭いのか。たぶん、どっちも。
「まあ、ベテランの人たちからは少なからず偏見はあるかな。でも若い人は逆で、偏見はほとんど無い。私としては警察は男だらけで、最高な環境よ。あと、最近はドラマや小説でBL物が多いせいで女性警官からはキラキラした目で見られるの」
「最高な環境……キラキラした目。想像の反対でした」
ユズさんはそう言いつつも、きっと沢山辛い想いをしてきたはず。器が大きいだけじゃなく、ポジティブで話しているだけで気持ちが良くなる。
「そういえば遅れた理由、痴漢に合ったって聞いたけど本当?」
「……本当です」
「もちろん、あそこ蹴り上げてやったわよね?」
涼しい顔でユズさんはとんでもないことを言う。
「いえ、私怖くて……」
「まあ、そりゃそうね。私ならその小さな2つのピンポン玉を砕くぐらい膝を入れてやるわ」
やっぱり男社会で揉まれているだけある。
ふんわりとした優しい雰囲気の中にも、男以上の男気を感じた。
イメージしただけで痛そうな話。実際は痛みがわからないけど。
黙って唖然としていると、ユズさんは「ここは男社会。でもだからって遠慮したり引け目感じたらダメよ。ピンポン玉があるか無いかの違いしかないって思ってね」春の陽射しのようなふんわりとした声質。
ちょこちょこびっくりワードが出てくるけど、それも込めて素敵。
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