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現実逃避した。
この人が本当に警視なら、私は上司に警察官だと打ち明けたことになる。
『私、警察官ですから、次の被害者を出させる訳にはいきません。誰か1人でも守れるなら、何を言われても耐えられます』
まだ現場を知りもしない新人が百戦錬磨の警視相手に……
ただ近藤さんが警視だと知って今朝あった出来事のピースがはまってゆく。
私が痴漢をされているとすぐに知った観察眼、素早い確保、足の速さに的確な対応。
考えてみれば一般人にあんな芸当はできない。
ふと彼が口にした言葉を思い出す。
『警官としても、人間としても、君はかっこいいよ』
顔から火が出るほど熱くなる。
恥ずかしいと嬉しいが同時に込み上げた。
これから挨拶なんてどんな顔をして会えばいいのか……
ユズさんは私に手招きをして一番奥の席に座った近藤警視の前へ私を連れていく。
「近藤課長、おはようございます。望月希子さんをお連れしました」
私はうつむいたまま「おはようございます。本日からお世話になります。望月希子です。宜しくお願い申し上げます」深くお辞儀をする。
座ったばかりなのに近藤警視は立ち上がり「おはよう。最初は慣れないだろうが、少しずつ順応していってくれ。宜しく」手を差しのべてくれた。
今朝のことは何も口にしない。
私から何か言うべき?
思考を巡らせながら私は両手で握手した。
大きくて男らしいのに、綺麗な手。
まだ彼が上司なんて実感できない。
「よし、希子ちゃん。あなたのデスクを案内するわね。課長、失礼します」
「ユズ、彼女の面倒を宜しく頼む」
「はい、かしこまりました」
ユズさんは春の朝日のような温もりがある笑顔で答える。姿は男性でも、こんなに綺麗な男性は見たことがない。見習うところが多すぎる。
私とユズさんは近藤さんの前から離れると「どう?希子ちゃん。近藤課長ってビックリするぐらいイケメンでしょ?」はにかみながら言う。
「は、はい。イケメンです」
「32歳で独身、彼女なし。私調べではね。ただ、競争率は高い……高すぎるぐらい。まあ、当然よね」
「ユズさん、もしかして近藤課長のことを……」
彼を見つめると無邪気な笑みで舌を出す。
「そう、その通り」
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