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何だかわからないけど、話せば話すほど直弥への罪が重なっていくような気がした。手のひらで転がされている、ずっと。
「口説かないで下さい。私には婚約者が居ます。1年後に結婚予定です」
冗談かもしれないのに、なぜ私はムキになっているんだろ……
「口説く?そんなつもりは無かったが……悪い」
謝られ、今度は近藤課長に対して申し訳なくなる。違う罪が上乗せされた。
「話を戻させて下さい。課長なのに、現場で捜査されるんですか?普通は指揮を取る立場ですよね?」
「普通、普通って。俺たちの世界に普通は無いと言っただろ。確かに指揮だけに専念する課長がほとんどだ。だが俺は現場に行き、五感すべてを使って手がかりを知りたい。最近は貧困で苦しみ、止む終えず犯罪に手を出す人間も居る。肩が当たっただけで包丁を持ち出す性格の人間も、自殺願望があって他人を巻き添えにする人間も居る。日本の治安は右肩上がりに悪くなっているんだ。だが、治安を守るための警官は少子化や危険、きついの理由で減っている」
眉間にシワを寄せた近藤課長の言葉に私は圧倒された。
彼は低いトーンの声で続ける。
「団塊の世代、つまり今から40年前は一気に多くの人が警官に採用された。その世代が定年を迎え、警官は激減している。経済も下降し続けるこれからの日本は犯罪件数が増え、反対に警官は少なくなっていく。1人でも多く現場へ行き、都民の安全を守るべきだ。だから俺は現場に行く」
生々しい現実。
日本はどの国より平和だと思っていたけれど、それが社会でいう平和ボケ。私もその中の1人だったことにショックを受けた。
近藤課長みたいな人が居るから、私たちは毎日を安心して暮らせている。
今さら警察組織の凄さを知った。
「でも、なぜ入ったばかりの私が課長と組むのでしょうか?」
彼と目が合い、一気に緊張が走る。
「不服か?」
「いえ……そうじゃなくて……」
「確かに異例ではある。望月としては、課長と新米が組むなんて普通じゃないだろう。だが何度も言うが普通なんて無い。むしろ俺は普通という言葉が嫌いだ」
鋭い視線は、刑事特有のものを帯びていた。
電車でおばあちゃんに席を譲る、甘い表情は微塵もない。
「でも、だからって何で右も左もわからない私なんかが……」
「俺と組んでいた人は昨年で定年だった。新しい相方の候補が数人居たが止めた」
「止めた?」
「望月、俺は君と組みたい」
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