4月 ②

16/18
前へ
/192ページ
次へ
受付係の女性は緊迫した表情になり「警察の方……ちょっとお待ち頂けますか?」と慌てて奥の事務室へ消えて行った。 突然警察が乗り込んでくるケースなんて、ほとんど無いと思う。 「近藤課長、アルジュンが救急搬送されたなんて聞いてません」 「言ってないから当然だ。俺が知ったのも朝だ」 「朝?」 「テレビで流すほどでは無かったんだろう。新聞には小さく記載されていた。あの店で原因不明の食中毒のような症状を訴えたらしい。誤解のないように言うが、食中毒に似た症状だが、それよりさらにひどいらしいんだ」 「……いや、でも私もあの店で食事をしましたが、何ともありませんよ?」 「それはわかっている。注意深く希子の様子を見ていたからな。新聞の情報では『外国産のパクチーに添加禁止の保存剤が使われていたと記載されていた。忘れたのか?今朝、パクチーは食べるか聞いたこと」 「えっ?あれって何気ない話じゃ……」 「体調の異変もないのに、不安にさせたくなかったからだ」 まさかそこまで私に気を使ってくれていれなんて。 パクチーを食べなかったから、私は元気でいられる。でもアルジュンは山ほど食べていた。 ニュースでは報道されず、新聞にも小さく取り上げられていたと近藤は説明をした。 すべてわかってて、夕食の話をし、さりげなくパクチーが好きかどうか聞いたんだと思う。 早朝から何冊も読む新聞の理由がわかる。 受付の女性が足早に戻ってきて「症状が重く、保存剤に何が使われ副作用がどう出てくるかわからない状態です。つい先程、意識を取り戻されたばかりです」息づかいが荒く、しかし丁寧に説明してくれた。 「先程?それまでは意識が無かったと?」 「はい、そうです。まだ意識朦朧としていて今の状態だと話せるかどうかと……」 「わかりました、では出直します。これだけ届けてやってくれませんか?」  近藤課長はコンビニで買ったビニール袋を手渡す。 「これは?」 「元気になってからでいいです。プリンやゼリーなど体に負担をかけないものから選んでます。あとは参考書。経済や心理学、法律の本を数冊入れています。後は医者や看護師に判断は委ねます。お手数ですが渡して下さい」
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2603人が本棚に入れています
本棚に追加