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受付係の女性は緊迫した表情になり「警察の方……ちょっとお待ち頂けますか?」と慌てて奥の事務室へ消えて行った。
突然警察が乗り込んでくるケースなんて、ほとんど無いと思う。
「近藤課長、アルジュンが救急搬送されたなんて聞いてません」
「言ってないから当然だ。俺が知ったのも朝だ」
「朝?」
「テレビで流すほどでは無かったんだろう。新聞には小さく記載されていた。あの店で原因不明の食中毒のような症状を訴えたらしい。誤解のないように言うが、食中毒に似た症状だが、それよりさらにひどいらしいんだ」
「……いや、でも私もあの店で食事をしましたが、何ともありませんよ?」
「それはわかっている。注意深く希子の様子を見ていたからな。新聞の情報では『外国産のパクチーに添加禁止の保存剤が使われていたと記載されていた。忘れたのか?今朝、パクチーは食べるか聞いたこと」
「えっ?あれって何気ない話じゃ……」
「体調の異変もないのに、不安にさせたくなかったからだ」
まさかそこまで私に気を使ってくれていれなんて。
パクチーを食べなかったから、私は元気でいられる。でもアルジュンは山ほど食べていた。
ニュースでは報道されず、新聞にも小さく取り上げられていたと近藤は説明をした。
すべてわかってて、夕食の話をし、さりげなくパクチーが好きかどうか聞いたんだと思う。
早朝から何冊も読む新聞の理由がわかる。
受付の女性が足早に戻ってきて「症状が重く、保存剤に何が使われ副作用がどう出てくるかわからない状態です。つい先程、意識を取り戻されたばかりです」息づかいが荒く、しかし丁寧に説明してくれた。
「先程?それまでは意識が無かったと?」
「はい、そうです。まだ意識朦朧としていて今の状態だと話せるかどうかと……」
「わかりました、では出直します。これだけ届けてやってくれませんか?」
近藤課長はコンビニで買ったビニール袋を手渡す。
「これは?」
「元気になってからでいいです。プリンやゼリーなど体に負担をかけないものから選んでます。あとは参考書。経済や心理学、法律の本を数冊入れています。後は医者や看護師に判断は委ねます。お手数ですが渡して下さい」
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