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「私と……組みたい?戦力になるはずが無いのにですか?」
「戦力になるかならないか、なぜ今の時点でわかる?」
「それは……じゃあ、女だからですか?」
近藤課長は深くため息をついてコーヒーを一口飲んだ。
「女だから、だと?俺は男や女、ジェンダーなんか気にしない。どうだっていい。もし君が男だったとしても、結果は同じだ」
言いきる彼の目は、まったく揺らがなかった。声も同じ。嘘は言っていないとわかる。
「すいません、やっぱり納得いきません」
「何が引っ掛かっているんだ?」
「近藤課長が私と組みたいとおっしゃられる理由がわかりません」
「今朝、望月が口にした言葉が理由だ。あのとき、君と組むと決めた」
「私が口にした言葉?」
真剣な顔のまま、コーヒーカップに添えられた使っていないスプーンで、ロールケーキを多めにすくって食べ「うまい」と言う。
「あ……それ、私の」
聞こえなかったかのようにコーヒーで口を潤し「『警察官だから、次の被害者を出させる訳にいかない。誰か1人でも守れるなら、困っても何を言われても耐えられる』って言っただろ?それが理由だ」再度スプーンを持った手を伸ばす。
私は彼の手首を握り制止させ、首を横に振って睨んだ。
これ以上、お宝は渡せない。上司といえど、警視といえど。
「そんなの理由になりません」
「そんなの?それ以上の理由はない。警官にとってその気持ちがあるか無いかでは大きく違う。根幹の部分だが、案外その根幹を持たない警官は多い」
もう一口が食べれなくて、近藤課長は語気を強くした。
彼の真剣なオーラと圧倒される表情を感じ、私は取り調べを受けている気分になる。食べているのはカツ丼ではなく、ロールケーキだけど。
「命令ですか?近藤課長と組むこと」
「ああ、命令だ。そんなに嫌か?」
「嫌というより、足手まといになりたくありません。プレッシャーも大きいですし、他に組みたい方だっていらっしゃるはずです」
「足手まとい?新米なら当然だろ。それに他に俺と組みたいやつなんか居ない。去年まで組んでいた先輩の前は、俺の相手が嫌で何人も変わっている。つまりハズレくじ扱いだ」
「ああ、なるほどです。なんとなく気持ちわかります。警視なのに、尋ねもしないでロールケーキを泥棒する人ですから」
近藤課長を私は悪く言える性格じゃない。
就任早々、生意気にも課長を質問攻めをし、反抗的な態度を取っている厄介者。
「新米なら足手まといで当然だとは言ったが、全力で捜査をしなければ許さない。覚悟しとけ。女だからといって容赦はしない」
厳しく切れ味鋭い目に、張り詰めるような口調。年齢はそう変わらないのに貫禄さえある。
「近藤課長」
「なんだ?」
「真剣に語られてますが、唇の端にクリームついてます」
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