4月 ③

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4月 ③

アルジュンさんは一週間で退院した。 迎えに来たのはおばあちゃんと近藤課長と私。 おばあちゃんは家から離れているにも関わらず、アルジュンさんの身の回りのお世話をしてくれていたらしい。 相変わらず深い絆に羨ましささえ覚えた。 私と近藤課長はボホウ様に『直弥と不倫して婚約までしていた』と密告した人を考えていたけれど、いくら話し合おうとも結論まで辿り着かない。 一週間の間に偽の弁護士と、妻と名乗る派手な女性は現れなかった。連絡もない。 青蜂教会へ行き、偽弁護士の個人情報を見たけれど連絡先や住所はすでに変更されているらしいと、近藤課長は警察のデータベースを見て言った。 ただ、ひとつだけわかったことがある。 あの妻と名乗る菊池 紗栄子は青蜂教会ではレベル3で、古参の一人だった。 役割はA。近藤課長に尋ねるとAはALL(オール)の頭文字で、多種な活動を任されるらしい。あまり見ない役割らしかった。 紗栄子。 金髪で長い爪には派手なネイル、真っ赤な口紅に濃いアイシャドウ。アクセサリーもピアスや指輪、ブレスと至るところにあった。バッグだってパンプスだって高級ブランド。 唯一、ペンダントはひし形が重なったデザイン。 ホステスとギャルの間のような容姿を思い出す。 この女性も調べたが特別目新しい情報は無かった。 彼女から言われた『地味な女』という言葉。 否定はできない。黒髪を後ろで束ねるだけで、身につけているものといえば腕時計ぐらいしかない。化粧だって簡単に済ませている。 仕事だからじゃなく、プライベートでもあまり変わらず、自分でも地味だと思う。 だから正直、鳶職でガテン系でイケイケの直弥には紗栄子さんのほうが似合うと思う。きっと一緒に居て楽しいだろうし、華やかで綺麗だから友達にも紹介したりしていたんだろう。 だからアルジュンも直弥と紗栄子さんと写った画像を持っていた。 オラオラ系というか、遊びたい盛りの直弥が私みたいな地味で面倒な女を本気で好きだったなんて、改めて考えると怪しい。 出会った最初から、遊び相手だったんだと思う。一緒に居るときもよく携帯を触っていたし、クリスマスなどの特別な日も会社メンバーで飲みに行くと毎年言われた。だからといって責めず、楽しんでおいでと見送っていた。私と体を重ねた後に。 東京に出てきたばかりの、田舎者で昔は気が弱かったため、わがままを言うこともできなかった。 つまり偶然できた都合のいい女。 私じゃなく、紗栄子さんを選び結婚したのが何よりの証拠。
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