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もう今では、直弥の事件だから事実を知りたい訳じゃなく、警官として真実を知りたくなっていた。しかし、私情がまったく無いといえば嘘になる。
消えた結婚資金、私へのプロポーズ、なぜ既婚者なのに別れを切り出してくれなかったのか、あれは本当に事故だったのか……上げれば霧がないほど。
真相を究明し、憧れていた警官として動きたい。
自分自身の中で仕事と私情が交互に浮き上がってきた。
「近藤課長、本当のことを教えて下さい。ボホウ様に私と直弥の関係を伝えた人物が誰か、目星はついているんですか?」
偽弁護士と直弥の妻……の紗栄子さんが現れてから1週間。色んな角度や情報から捜査を続けたけれど、尻尾さえ捕まえられない状態。
直弥が働いていた会社を訪ね、何の収穫もないまま街路樹のある、整備された道を無言のまま歩く。
警視庁の事務所へ入る前に私は彼へそう言った。
真実に近づいている気がせず、苛立ちを含んだ声色。近藤課長は表情を変えず、足を止めてこちらへ視線を向ける。
「目星か……全くついていない。青蜂教は情報収集力が優れていて、どのルートから入手してもおかしくない。だからといってボホウ様には直接尋ねるのは無理だな。会うことすら難しいし、話してくれるとは到底思えん」
「……ですよね。じゃあ、どうしたら前に進めるんだろ。上層部は事故として処理していますし、私達も他の事件も受け持ってますから、これにばかり時間は取れないですよね……」
「前には進んでいる。無駄だろうが何だろうが考えられる可能性を潰していっているんだ。どこかに糸口を見つけられる、絶対に。完璧な犯罪も完璧な人間もいない」
「そりゃ、そうですが……」
気の短い私は糸口のいの字も見つからず、焦りと悔しさでいっぱいだった。
「何?秘密の話?」
私たちが事務所の隅で小声で話しているとユズさんが現れ、近藤課長と私の顔を交互に見る
「ちょうどよかった。ユズにも話しておきたかったんだ」
「話しておきたい?」
「ああ。覚えているか?あの所轄で威勢がよかった岩田警部補だが」
「岩田警部補?もちろん覚えてます」
「裏の噂では、あいつは青蜂教の協会員らしく、警察へ送り出されたスパイらしい」
私は立ち止まり、目が飛び出るほど驚く。
「えっ、あの岩田警部補が?」
「ああ。どうやら定年を迎えた後に青蜂教を乗っ取ろうと動いているようだ。下手したら邪魔するやつの命も狙いかねないだろう」
「岩田警部補が?青蜂教会を乗っ取る?そんな馬鹿な」
私は呆れた表情と驚いた表情を同時に顔に出す。
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