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警視庁から歩いて5分。1ヶ月とちょっと前に来た喫茶店へ着く。
前回は二つの驚く話をされた場所。
一つは新人の私が、警視である近藤課長と組むこと。
二つ目は……私に対しての彼の想い。
店の中へ入ると、相変わらず年季の入った作りとレトロな雰囲気。
騒いでいた胸を、ゆっくりと心を落ち着かせてくれる。
明るすぎないオレンジ色の照明とこじんまりとしている店内は、やっぱり素敵。
「おお、警視さん、また仕事さぼってデートかい?隅に置けないね」
近藤課長は聞こえなかったかのように受け流し「マスターこれ」スーツの内ポケットから茶風当を出して、手渡した。
「おお、また今回も悪いね。わがままに付き合わせてしまって」
マスターと近藤課長、私以外、従業員の姿もお客さんの姿もない。
そういえば前回も茶色い包装紙の袋を渡していたことを思い出す。
白髪を後ろへ流した初老の男性は、私と身長が同じぐらいで、エプロン姿が似合う素敵なおじいちゃん。相変わらず、優しさが滲み出ている。
近藤課長は苦笑いをして口を開く。
「いや、わがままだなんて、思っちゃいませんよ。むしろ……」
「コーヒーを1つと、紅茶でいいかい?」
マスターは私を見てそう尋ねる。
前のめりになって「ロールケーキありますか?」と答えると「今日は客が少ないから、たくさんあるよ」口角を上げるマスター。
「やったー。じゃあ、ロールケーキを三つ下さい。またおかわりするけど、とりあえず」
「嬉しいことを言ってくれるね。お嬢さんは素直で明るくて、若い者しか出せない光がある。色んな人間を見てきたから、あなたがどんな人かわかる。本当に愛嬌があって素敵な女性だ。無愛想な誰かとは正反対だな」
マスターはにたりと笑いながら、視線を私の横にずらした。
いつも以上にツンとして近藤課長は「ここは今日も大丈夫ですか?」と尋ねる。
「ああ、もちろん大丈夫だよ。その様子は……わかった。今日はどうせ誰も来やしないだろうし、早いが閉店するよ」
「すいません、ありがとうございます」
「え?閉店?じゃあ、私達も帰らないといけないの?ロールケーキは?」
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