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慌ててマスターと近藤課長を交互に見た。
「お嬢さん、落ち着いて。そうじゃない。簡単に言えば、今から貸し切りになるだけだよ。だから今ある全部のロールケーキを食べていい。お会計は天下の警視様がしてくれるさ」
マスターはこれまでと違い、少しずつ会話を砕けさせ、昔からの知人のように話してくれる。
「やったー。お腹もすいてるし、お金も払わなくていいなら本当に全部食べよっ。するつもりも無いけど、ダイエットは明日から」
私が拳を作ると、マスターは大きく笑った。
テーブルへ座りしばらく待つ。
コーヒーと紅茶、そして大量のロールケーキが運ばれてきた。
インスタ映えする光景だったけれど、携帯を取り出す時間も惜しくてフォークを手に取るなり、半分に割って一口で食べた。
「……おいひっ」
フォークが止まらない。
スポンジはふわふわで、卵の香りがふんわりとし、ちょうどいい弾力。
生クリームも甘すぎず、だからといって物足りない訳じゃない。甘さはあるけれど、余韻を残して引いていくため、次を欲してしまう。
カレーは飲み物という名言と同じく、ロールケーキを飲む感覚。明日は体重計に乗らないと決めて食べに食べた。
近藤課長はうっすらと微笑みながら、絶景でも見るかのように満足気な顔をしている。ドン引きしてもいい状況にも関わらず。
もう切らないで恵方巻みたいに食べたほうがいいんじゃないかというレベル。
6切れ目を食べ終えたところでマスターがテーブルまで来て「こんなにうまそうに食べてくれる人は10年以上やっていて、お嬢さんが一番だよ」ティーポットを片手に頷く。
「見ていて気持ちがいいよ。な?警視様」
紅茶を注ぎ終わるとマスターはそう言いながら、近藤課長に視線を向ける。
「そうです。俺は人生で今が最も幸せを感じています」
つい恥ずかしくなって私はフォークを止め「食べづらいですから、見ないで」と言いながらも、再び口に詰め込む。
「見るぐらい、いいだろ?」
「嫌です。気になるし」
「見ていたいんだ。できることなら、残りの人生ずっと」
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