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「ええっ、近藤課長が緊張?」
「ああ、表には出さないが足がすくみそうになる。あの人が居なかったら、今の俺はないからな」
「そんな凄い人だったなんて」
「『犯罪者という時点で普通の考えは待ち合わせていない。大多数の人間が考える普通を逸脱している。そんなやつらに普通は必要か?そもそも普通のラインがわからない。じゃあ、普通は捜査に必要か?』今でも俺の胸に残っている言葉だ」
カウンターで鼻歌を奏でながら洗い物をするマスターを見たけれど、そんな面影は微塵もない。
まさか、近藤課長の大先輩で相棒だったなんて。
「普通は捜査に必要か……」
噛み締めるように私は呟く。
「今の希子ならわかるだろ?」
「まあ……なんとなくですけど。だから近藤課長は普通なんてないって……納得しました。でも、そんな大先輩が退職して喫茶店をやられているのに、力を貸してもらっているって……どういう意味ですか?」
私の質問がすでにわかっていたかのように、彼は続けた。
「さっきも言ったように、あの人は今も破天荒だ。警官を辞めても、趣味で警官を続けている」
「ん?趣味?」
「人生の三分のニ以上、警官をがむしゃらにやってきた人だ。芹沢さんの心も体も警官一色で抜けないらしい。だから、俺が担当する捜査の情報を知って何かさせて欲しいと相談があった」
「で、でも警官には情報を漏らさない義務がありますよね?もしかして、手渡していたものは捜査情報ですか?」
「そうだ」
「……いくら元警官だからといって、捜査の情報を伝えたら、かなりマズいんじゃないですか?」
早口で捲し立てて言うと「だから事件を解決するためには破天荒で暴れん坊だと言ったんだ」珍しく苦笑いを彼は浮かべた。
「破天荒というか……それも犯罪になるんじゃ?バレたら近藤課長は懲戒免職になりますよ」
「無茶苦茶なことをやって事件を解決してきた上司を見てきた……俺も、いつの間にかそうなってたってことだな」
「そんな軽い話じゃないです。クビですよ、クビ」
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