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照れた様子は無く、親指を口元に沿わせる。唇へ私の視線が自然と向き、その仕草と唇の動きに不意を突かれて胸が脈を打った。
慌てて目を逸らす。
紅茶を飲んだけれど味がしない。
誤魔化すように私は「話は終わりですか?ペアになる件は了解しました。まあ、拒否権が無いから当然ですけど」上司に向かって初日から強い口調で答える。近藤さんは何もしてないのに、怒った声質。
私が席を立った瞬間、「待て。まだ話は終わっていない」それを聞いて説教されることを覚悟した。
ため息をついて腰を下ろし「何でしょうか?」突き放すように返す。
目が合って違和感を抱く。
先ほどまでとは違う瞳の光。真っ直ぐで鋭い視線は変わらないけれど、何かが違う。
彼は熱を帯びた声を出す。
「望月、教えて欲しい」
「……え?」
近藤課長が私へ何かを教えるならわかるけど、私が課長へ教える?
何を?
「ある人が知りたがってる。だが俺には片手すら埋まらない程度しか、恋愛経験が無い。女心なんてもっての他だ」
「……はい?」
いきなりの恋バナ?
恋愛経験が少ない?この容姿で?
モテるだろうから恋愛経験は多いだろうなと私も考えたけれど、性格を知れば相談は踏みとどまる。よくこんな仕事人間に相談できたなと思った。
確かに優しいところがあるっていうのは認める。容姿も周りが二度見するレベルだけれど、近づきがたいオーラのため、モテるだろうが恐れ多くて告白できない人ばかりなはず。
それに、近藤課長からガツガツいくイメージも湧かない。
従って恋愛経験が少ないのは頷けた。
相談者は、もっと遊び人だとか、彼女が途絶えないとか、そんな人を選べばよかったのに。
「いきなり仕事以外の話で悪い」
「いえ、それは別にいいですが……その人は何を知りたがっているんですか?」
少しの間。
店内の調理場から洗い物をする食器の音が聞こえた。
近藤課長は初めて視線を落とし、口を開く。
「人は、一目惚れってするものなのか?」
彼とは反対に宙を見上げ「うーん、私は経験ないですが、友達には何人かいます」見た目だけで好きになるなんて、私としてはありえない。中身が大事。
直弥とだって付き合うまでに5年かかった。
「見た目じゃないらしい。突然ナイフで胸を刺されたかのような衝撃を感じたのは、見た目じゃなく……何かが走る感覚。刑事の勘に似ている」
「まだ私は刑事の勘はわかりません。それにしても、相談してきた本人のような言い方ですね」
苦笑いを浮かべて私は言う。
すると近藤課長は瞼を閉じて静止し、1、2秒してから目を開けた。
その真剣な瞳は、私の瞳へ入り込んでくる。
「知りたがってるある人とは俺だ。望月、俺は君に一目惚れをした」
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