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「そこは芹沢さんも考えたらしく、公案課に行って直談判したらしい。そして半ば無理やりに許可をもらったと言っていた」
「じゃあ、マスター……芹沢さんは公安に所属されているってことですか?」
近藤課長はコーヒーで口を潤すと「所属か……ちょっと違うな。趣味は趣味だ。現役のときの実績がある芹沢さんだから、公安は許可を出したまでだ。バレ方にもよるが、まあそれは心配する必要はない。ベテランで百戦錬磨のあの人が、下手なミスは犯さないと断言できる。公安も尽くしに尽くした調査の結果で判断した」
「このこと、誰が知っているんですか?」
「公安のトップと芹沢さん、俺、そして今聞いた希子だけだ」
聞くべきでは無かったと後悔した。
あまりにも話が重すぎ、口元を滑らせれば、根元から切られた大木が倒れてしまう。
「私が聞いた?忘れました」
後の祭りとはわかっていたけれど、これはせめてもの抵抗。むしろ、願望。
「そうしたほうがいい」
わかっているなら、話さないで欲しかった……迷われているところを、私が無理に聞いたけど。
「もう今日は、ここを出ませんか?」
散々ロールケーキを食べて満足したのもあるけれど、このままじゃ、聞かないほうがよかったとまた後悔する情報を聞いてしまいそうで怖かった。
世の中には、知らないほうが幸せなことが多い。
直弥の浮気や今のマスターの話のように。
「わかった。芹沢さんへの伝達は終わったから、そうしよう」
立ち上がりレジまで行くと「彼女に話したのか?近藤」マスターの芹沢さんは鷲のような油が浮く照った目をして尋ねる。
「はい。希子は俺の相棒です。仕事でも、プライベートでも」
「馬鹿なことをしたな」
空を自由奔放に飛び回り、旋回して獲物を狙う、その眼光。
いくら相棒だからといって簡単に話していい内容じゃない、と私にもわかる。しかも新米刑事に対して。漏らしたくない情報なら、リスクを考えても知っている人間は少ないほうがいいに決まっている。
「……芹沢さん、すいません。いつだって彼女の傍に居ますし、もし何かあったら俺がすべて責任を追います」
「そうじゃない」
芹沢さんは首を小さく横に振って、付け加えた。
「知れば苦しむのは、お嬢さんだ。大切な人なら、大切にしろ」
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