4月 ④

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『そんなんじゃない。私だっていい大人だし、警官のはしくれだから大丈夫って意味だよ』 どう返事をすればネガティブに取られないか考えてメッセージを作成し、数回読み返して送る。 その後で物足らない気になり『その分、明日の夕飯は楽しみにしてるからね』と追加した。 『わかった、任せろ。何かあったら遠慮せずに連絡をくれ。着信音はMAXにしておく』 いつもの私ならメッセージを考えたり、気にかけられたりするのは面倒だなと思うはず。でも、嫌な気持ちは微塵もしなかった。 「希子ちゃん、居る?」 無意識に胸に当てたスマホと上がった口角を、真剣モードへと焦って切り替える。 シャワー室のドア越しにユズさんの声がして「はい、居ます」と早口で告げた。 「ごめんね、待たせて。重ね重ねで悪いんだけど……」 何か言いたそうだけど、弱々しくて「どうしました?」と尋ねる。 「シャワーセットをデスクに忘れちゃったみたい」 「なんだ、そういうことですか。取ってきますね」 「本当に、あれこれごめんなさい。デスクの3段目の引き出しに紫のポシェットがあるから、それをお願い……します」 「気にしなくていいです。私、後輩なんだし、たいしたことじゃないですから。ちょっと待ってて下さいね」 ユズさんのようなしっかりした人でも忘れ物するんだ、意外。と思いながら、親近感が湧きながら事務所へ急いだ。 すぐに紫のポシェットは見つかり、戻って女性用のシャワー室のドアを開ける。 開けた瞬間に息を大きく吸った。 ……しまった。女性用のシャワー室だし、ユズさんを女性だと思い込んでいて、当然のように開けちゃった。 心も何もかも女性ではあるけれど、体だけは……男性。 こんなとき、どうすればいいか、これまでの記憶を探しても経験はない。相手の気持ちになろうとしたけれど、どうしてもわからないものは、わからない。 「ご、ごめんなさい」 もうその言葉しか出なかった。 目を瞑ろうとしたけれど、開いた瞼は簡単には下がらない。 私の視界は、しっかりとユズさんの姿を捕えていた。
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