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「っごめんなさい」
今度はユズさんと目を合わせて謝った。誤魔化しようが無いし、見てしまったのも事実。
「ありがとう」
「え?ありがとう?」
ユズさんは私の手元へ視線を向け指を指した。
「ポシェット。助かったー」
「あ、そ、そうだ。これ」
持っていたものを手渡す。
「希子ちゃん、謝らなくても大丈夫。ご覧の通りだから」
改めてその体を見ると脇から下をバスタオルで巻き、まったく見えない。
「……よかった」
「こうなるかもしれないって思ってたの。私は全然平気だけど、希子ちゃんが困るだろうからね」
「……読まれてる。流石、軍師。先読みして対策されているなんて」
ユズさんは笑って「このくらい、私みたいな体質の人なら当然よ。あるあるだから」表情は上品で、美しく光る中性的な顔立ちに眩しくなる。
私みたいな体質……か。
無意識とはいえ、無頓着な自分が嫌になる。
こんなときどうしたらいいとか、相手の気持ちになるとか、偉そうに。
無意識だからタチが悪いと思う。意識しているほうがマシ。この無意識が相手を傷つけ、相手が予防しなきゃいけなくなる。私みたいな無頓着が困らないように。
『あるある』だなんて、言わせちゃいけない。
私個人も日本社会も、当たり前に気をつける世の中にならないと……そんな日は来るのかな……
これ以上、私がうじうじしていたらユズさんに迷惑がかかる。
明るく努めようと視線をユズさんの体から上へ移そうとしたときだった。
首もとに光るものがある。
きっと1度シャワーを浴びてシャワーセットがないことに気づいて私に声をかけたはず。
その証拠に髪は毛先が濡れていて、首には白い肌の上に水滴がついている。
照明は明るくて、水滴も光っていたけれど、首もとのそれは明らかに違う光り方をしていた。
細いチェーンだけのネックレスじゃなく、確かにあるペンダントトップ。
ユズさんは日頃、丈が長い襟の服を着ていたため、その存在を初めて知る。
「……あの、ユズさん……それって……」
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