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私の視線に沿ってユズさんはペンダントトップを手に取った。
「これ?かわいいでしょ?」
少しだけ得意気な顔をする。
「……はい、かわいいです」
「でしょ?有名ブランドじゃないし安物だけど、一目惚れして買ったの」
シルバーのハートのリングが2つ、鈴なりについている。
チェーンを辿るときに胸が騒いだけれど、どう見てもあれのシンボルマークじゃなく、ほっとした。単純にかわいくて驚いた。
「凄く素敵です。どこで買ったんですか?他の種類があったら見てみたいです」
何気ない女子トークになり、ユズさんがタオル1枚にも関わらず、話を広げてしまう。
無頓着は簡単には直らない。
「これ、半年ぐらい前に駅前でフリーマーケットがあってて、そこで出会ったの。ハンドメイドで他に同じものはあと1つしか無いらしくて」
「フリーマーケットでハンドメイドかぁ……じゃあ、簡単には手に入りませんね。あと1つしか無いなら、もう売れてるだろうなぁ」
「うん、売れてる。だって私達が2つを買い占めたから」
「私達?あっ、もしかして」
一瞬でユズさんの頬が赤くなった。シャワー室が暑かったからじゃない。一気に乙女の顔になったユズさんへ「もう1つは、会津さんですね?」とわざとニヤけて尋ねる。
「まあ、その、ねっ……」
歯切れが悪い軍師を前に「ご馳走さまです」近藤課長と私のやり取りのときに言われた言葉をそのまま返す。まさか、ユズさんをからかえるチャンスがこんなにも早く来るとは。
「シャワー浴びてくるね」
わざとらしく話を変えて振り返ろうとしたユズさんを見て「あれ?それ、ケガですか?」二の腕には包帯が巻かれていた。
「うん、この前、剣道の訓練のときにやっちゃったの。相手が強くてこの有り様」
「大丈夫ですか?病院は行きましたか?」
「湿布を貼っているから、念のために取れないように包帯しているだけよ。大袈裟に見えるだけで全然大丈夫」
「ひどくなったら、病院行かないとダメですよ。気づかないだけでヒビが入っていたり、折れてたりすることもありますから」
「はいはい。じゃ、シャワー浴びてくるからもう少しだけ待っててね。出るとき声をかけるから、使用しに来た人が居たら教えて」
「寒いのに長話してすいません。了解です」
私はそそくさとドアを小さく開けて滑るように外に出る。
なんだか、女性のお手本を見せられた気分になり、自分と比較して大きくため息をついた。
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