4月 ④

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私の視線に沿ってユズさんはペンダントトップを手に取った。 「これ?かわいいでしょ?」 少しだけ得意気な顔をする。 「……はい、かわいいです」 「でしょ?有名ブランドじゃないし安物だけど、一目惚れして買ったの」 シルバーのハートのリングが2つ、鈴なりについている。 チェーンを辿るときに胸が騒いだけれど、どう見てものシンボルマークじゃなく、ほっとした。単純にかわいくて驚いた。 「凄く素敵です。どこで買ったんですか?他の種類があったら見てみたいです」 何気ない女子トークになり、ユズさんがタオル1枚にも関わらず、話を広げてしまう。 無頓着は簡単には直らない。 「これ、半年ぐらい前に駅前でフリーマーケットがあってて、そこで出会ったの。ハンドメイドで他に同じものはあと1つしか無いらしくて」 「フリーマーケットでハンドメイドかぁ……じゃあ、簡単には手に入りませんね。あと1つしか無いなら、もう売れてるだろうなぁ」 「うん、売れてる。だって私達が2つを買い占めたから」 「私?あっ、もしかして」 一瞬でユズさんの頬が赤くなった。シャワー室が暑かったからじゃない。一気に乙女の顔になったユズさんへ「もう1つは、会津さんですね?」とわざとニヤけて尋ねる。 「まあ、その、ねっ……」 歯切れが悪い軍師を前に「ご馳走さまです」近藤課長と私のやり取りのときに言われた言葉をそのまま返す。まさか、ユズさんをからかえるチャンスがこんなにも早く来るとは。 「シャワー浴びてくるね」 わざとらしく話を変えて振り返ろうとしたユズさんを見て「あれ?それ、ケガですか?」二の腕には包帯が巻かれていた。 「うん、この前、剣道の訓練のときにやっちゃったの。相手が強くてこの有り様」 「大丈夫ですか?病院は行きましたか?」 「湿布を貼っているから、念のために取れないように包帯しているだけよ。大袈裟に見えるだけで全然大丈夫」 「ひどくなったら、病院行かないとダメですよ。気づかないだけでヒビが入っていたり、折れてたりすることもありますから」 「はいはい。じゃ、シャワー浴びてくるからもう少しだけ待っててね。出るとき声をかけるから、使用しに来た人が居たら教えて」 「寒いのに長話してすいません。了解です」 私はそそくさとドアを小さく開けて滑るように外に出る。 なんだか、女性のお手本を見せられた気分になり、自分と比較して大きくため息をついた。
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