3月 ①

2/20
前へ
/192ページ
次へ
警察学校は府中市にあり、警視庁は千代田区にある。 家から府中市まではそうでも無かったのに、千代田区となると電車内の様子はまるで違う。 今日からこれが続くと考えるだけで、吐き気がした。 とにかく早く座りたい。 いくら訓練をしてきたからといっても、立って動かないなんていう訓練は受けていない。 本当に東京の人はタフだなと実感した。アスリートより、ある意味、鍛えられている。 「ここ、どうぞ。座って下さい」 目の前から聞こえた言葉。 私は飛び付くように椅子に座ろうとして、はっとする。 声をかけられたのは近くに居た杖をついたおばあちゃんだった。 すくりと立ち上がった男性は160センチの私より遥かに身長が高く180センチ以上はある。東京では珍しくないけれど、注目はそこではなくて容姿だった。 計算されたかのような整った目鼻立ち、綺麗な瞳は気を抜けば吸い込まれそうになる。 中央でかき上げられた黒髪は雨で濡れ、大人の男の色気が溢れていた。年齢はたぶん30歳から35歳の間。 よくメディアで国宝級イケメンという言葉を使われるけれど、それは彼のためにあると思った。 私なりに分析した結果、彼の色気はクールな雰囲気を(まと)っているからに違いない。 選ばれたひとつまみの中の、さらに選抜された人しか持つことが許されない独特なイケメンオーラ。視線を捕らわれてしまう。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2698人が本棚に入れています
本棚に追加