3月 ①

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「あら、ごめんなさい。膝が悪くて……お言葉に甘えさせて頂こうかしら。ありがとう」 丁寧にお辞儀をすると、おばあちゃんは椅子へ座り、頬を赤くしてイケメンさんへ視線を送る。 いくつになっても女は女。乙女には変わらない。だから年齢問わず、彼に見とれるのは当然だと思う。 ……そのときだった。 やはり東京は怖い。 私はお尻に違和感を覚え、すぐ何が起きているかわかった。 膨張した男性のあれが擦り付けられ、それは左右上下に動き、私はわざと体を動かして牽制したけれど満員電車では動ける範囲が限られていた。 振り返って顔を確認しようと思いつつも、怖くてできない。 私は警察官。捕まえてやる。 言い聞かせようとした……でも私は、警察官である前に人間だった。 これがテレビで映されていた痴漢か…… 被害女性が泣いていた映像を見ていたときは、私なら手を掴んで痴漢ですって叫ぶのにな、と思っていた。でも実際に遭遇したらこんなに怖かったんだと知る。 抵抗をしない様子を見て次第にエスカレートしてゆく。 痴漢男は私の腰に両手を当て、動けないように固定するとさらに下半身を押し付けてくる。 手慣れている反抗。 電車の揺れるタイミングを見計らって、大きくしたものを私のお尻に刺すように前後へ動く。後ろから激しくなる呼吸が聞こえた。 気持ち悪い。全身の毛穴が開く。 どうしよう。次の駅で降りる?でもそれじゃ、初日から遅刻してしまう。 ダメ、印象を悪くさせたくない。もう我慢するしかない。 諦めかけたときだった。 「おい、お前。止めろ」 ついさっき聞いた声が後方から聞こえた。
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