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3月 ⑦
「できたぞ、食べよう」
テーブルに並べられたオムライスとミネストローネ、サラダ、さらに生ハムとサーモンのカルパッチョに、ローストビーフ。
「うわ……すごい」
私はそれを見た瞬間、固まった。
料理を彼が始めてから40分ほどしか経っていない。なのに、これだけの品数。
しかも、どれもが料理雑誌に載っているぐらい綺麗に盛り付けられていた。
「ほら、立ち尽くしてないで座ってくれ」
唖然としながら、椅子へ腰を落とす。
「あの、毎日こんな感じで作って食べてるんですか?」
このレベルで私も作らないといけないと考えるとハードルが高過ぎる。
「まさか、そんな訳ないだろう。いつもはメインとサラダぐらいで、2品作ればいいほうだ。今日は初めての食事だから気合いを入れたんだ」
気合い、入れすぎ。明日は何を作ればいいんだろうと、そればかり考えた。
そんな私を置いて「シャンパン、飲めるか?」ステンレス製の大きな筒のような容器に水とたくさんの氷が入っていて、ボトルが1本浸かっている。
「シャンパン、お呼ばれされた結婚式ぐらいで、あんまり飲んだ経験がありません」
「そうか。せっかくの祝いの席だ、飲んでみてくれ」
近藤課長はボトルを持ち上げ、真っ白いナプキンタオルで水滴を拭いた。
目の前にはすでに冷やされて白く曇ったグラスがある。
見るからに高そうななボトル。
昔、友達と行ったBARでは、友達が飲みたくても手を出せなかった1杯2000円はするもの。
それをまさかボトルごと持っているなんて。
「これ、かの有名なシャンパンですよね?毎日、こんなお酒を?」
「そんな訳ないだろ。いつもは発泡酒か、ハイボールだ」
「じゃあ、なんでこんなタイミングで開けるんですか?もったいないです」
「今夜飲まないで、いつ飲む。俺からの気持ちだ」
そう言う顔は、まるで子供が宝物をあげるような得意気で純粋だった。
大人になってからでも、こんな表情できる人がいることに驚く。
「まさか……酔わせて……いやらしいっ」
私の心は汚れていると、心底思う。
この向けられる顔によく言えるセリフ。
明らかに悲しそうな顔で「疑うなら無理しないでいい」胸がちくりと傷んだ。
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