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「よし、飲み物は麦茶にしよう。さあ、冷める前に食べてくれ」
微動だにしない私は急かされる。
「はい。いただきます」
どれから箸をつけるべきか考えて「近藤課長……じゃなかった。陽之季さん。どれを最初に食べればいいですか?」並んだ料理はどれもおいしそうで悩んだ。
「そうだなぁ、本来なら前菜としてサラダやミネストローネを勧めたいところだが、ここは是非、オムライスから食べて欲しい」
「やった。実は早くオムライスが食べたかったんです。デミグラスソースのオムライスもいいですが、やっぱりケチャップには勝てません」
「落ち着いて食べろよ。喉に詰ま」「おいしっっ、何これ?今まで食べてきたオムライスの中でも一番。お店よりおいしいなんて」
彼が言う途中で、すでに私は口にして歓喜の声を上げた。
お世辞や気を使った訳じゃなく、本心。
「……よかった。どんな反応をされるか緊張していたんだ」
「緊張?何事にも動じない近藤かちょ……陽之季さんが?」
「当たり前だろ。これでイマイチなんて言われたら、明日から寝込んでいたかもしれない」
「そんな、まさか」
いや、この人ならやりかねない。
常識の範囲なんてあってないようなものだから。
「どうして見た目は一般的なオムライスなのに、こんなに違うんですか?」
「ポイントはいくつかある。みじん切りした玉ねぎは水に軽くさらしてレンジで温める。そのままだと水っぽいから軽く炒める。そして小皿に分けておくんだ」
「もうその時点で面倒くさいですね」
「まだ全然だ。鶏肉は切ってからヨーグルトとすりおろした玉ねぎに浸しておく。柔らかくなり、臭みが消える。しばらく浸けたらキッチンぺーバーで軽くヨーグルトを落とし、塩コショウとクミンを少しだけまぶして、時間を置いておく」
「プロの仕込みみたい。私には無理」
「熱したフライパンにオリーブオイルを入れ、潰したニンニクでエキスを出させたら、取り出す。そこへ玉ねぎと鶏肉を入れて火を通し、日本酒、みりん、少量のしょうゆとコンソメを入れ、水気が無くなったらケチャップを入れる」
「ごはんを入れる前にですか?」
「ああ、そうだ。ごはんから入れれば、混ざった場所と混ざらない場所ができて余計に火を通して、ごはんが固くなる。だからソースを先に作って砂糖を入れた後、炊きたてのごはんを入れるんだ」
明日、夕飯を作ろうと考えていた私は、やっぱり止めることにした。
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