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すべての料理がおいしく、ついつい食べ過ぎた。久しぶりにお腹が苦しい。
「まだおかわりあるぞ。好きなだけ食べてくれ」
近藤課長は早い段階で箸を置き腕を組んで、柔らかな笑みで私を見つめた。
「そんなに見られたら食べづらいです」
いつもはキリッとした顔立ちが、優しく微笑んでいる。
「悪い、悪い。おいしそうに食べてくれている希子が可愛くて。見ているだけで幸せになる」
私は親の遺伝もあって、口に入れるだけ入れてハムスターのような食べ方をする。そうならないようにいつもは気をつけているけれど、あまりの美味しさについ癖が出た。
近藤課長の言葉で一気に飲み込み、むせる。
「大丈夫か?」
「だい、じょぶっ」
彼が手を伸ばしたかと思うと、その指は私の唇へ。
体が硬直し、むせていたはずが勝手に止まる。
もしかして、顎くい?
キスする前に顎を引き寄せる、あれ?
食事中に、歯磨きもしてないのに、いきなり?
いやいや、そうじゃない。
キス?結婚の真似であって、そこまでする?
あ、でも、近藤課長は私を好きでいてくれてるから、おかしくはないか……違う、違う、そうじゃない。あれ?これ何かの歌詞だった気が……じゃなくて、好きでいてくれてるからキスを許す訳でもなく……
短い時間なのに、頭の中が騒がしくなった。
近藤課長は「身を引くな」低く、やや強めの声を出す。
さっきまでの優しさはどこへ?
指先が私の唇へ触れて、すぐに離れた。
「ごはん粒が付いていたんだ。焦らなくても誰も取りはしない。ゆっくり食べないと体に悪いぞ」
脱力。
固かったアイスが溶けるみたいに、私は力が緩んで背もたれに身をゆだねた。
しかし、また目を見張る。
取ってくれたごはん粒を、ごく自然に彼は口へ入れた。
そして我に返った様子で「あ、悪い。無意識に、つい」罰の悪い顔をする。
何、このベタな展開。
そう思いながらも、顔から火が出るように熱くなる。
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