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「すまない、本当に。つい幸せに状況を見失ってしまった」
「……別に、謝ることないです。怒ってませんし」
ぶっきらぼうに返事することで精一杯。
「こんなに幸せを感じ、癒されるのは何年ぶりだろう。まだ俺の中にあったんだな、こんな感情」
「私なんかで、幸せを感じる?癒される?そんな馬鹿なことありません。こんなどこにでもいる普通を絵に描いたような人間なのに」
「普通?」
「……あ」
「普通の人なんて存在しない。誰もがそれぞれの生き方をしていて、違う魅力を持っている。もちろん、普通と思っている希子にも当てはまる。自分で気づいていないだろうが、君の魅力は誰も持たない希子だけの魅力だ。それに俺は惚れたんだ」
29年間生きてきて、通知表は1学期から3学期まで5段階評価ですべての教科、オール3だった。
社内に出てもA~E評価があり、私は常にC評価。これを普通と言わないで何と言う。
容姿だってファッションには疎く、化粧も苦手。
こんなに素敵な人が私なんかを好きって。
ちょっと……いや、すごく変わってるけど。
返事に困った。
下手に期待させる言葉はできないし、だからといって否定するのも違う。
誤魔化すように夕食を一気に食べ「ご馳走さまでした。食器洗いぐらいはさせて下さい」有無を言わせないよう、強い声質で告げた。
「食洗機があるから、気にしないでくれ。それより疲れただろ?シャワーでも浴びて横になっていいぞ。後は俺がやっておく」
有無を言わせないように声を強くしたのに、彼にら通じなかった。
何をどう言っても、近藤課長は自分が口にしたことは譲らない、きっと。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えます」
私はなぜか怒りながら頭を下げ、自分の部屋へ行き、着替えを持って浴室へ向かった。
脱衣場には鍵があり、ほっとする。
脱いだ衣類は袋に入れ、後から洗濯して自室に干すことにした。下着は見られたくないし、変なスイッチが入られても困る。
浴室に入ってはっとした。
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