2650人が本棚に入れています
本棚に追加
シャンプーもコンディショナーも洗顔料もボデーソープも化粧水も乳液もカミソリもクレンジングも部屋に忘れた……
また着替えて戻るのも面倒。
そう思って浴室内を見ると「あっ」声を洩らす。
私と使っているやつと同じ、無印良品のやつだ。
意外だった。お金あるから何か高いブランドやメンズ用を使っているかと思っていた。
……変なところで気が合う。
使わせてもらうか迷ったけれど、事後報告すればいいし、あの様子じゃまず怒らない。もしかしたら、反対に同じものを使っていたことに喜ばれるかも。
下唇を出して「まあ、いいや」と呟くと遠慮なく使わせてもらった。
シャワーから出て近藤課長に「お先に入らせてもらってありがとうございました。部屋にお風呂セットを忘れたので使わせてもらいました。私も目印のシャンプーやらどれも使ってたので、助かりました。勝手に使ってごめんなさい。では、おやすみなさい」同じものを使っていると聞いた瞬間、彼は目を輝かせたので逃げるように、自分の部屋へ入る。
鍵を締めてベッドに横になると、5分と経たず夢へ落ちた。
朝、ドアをノックされ「希子、朝食できたぞ」と外から聞こえ慌てて起きる。
「ごめんなさい。朝食まで作ってもらって」
私はボサボサの髪を手ぐしで揃えながらリビングへ行くと、旅館で出てくるような和食が並べられていた。
「……朝から、すごい。私はいつもトースト一枚なのに」
「朝はしっかり食べないとな。さあ、食べてくれ」
笑顔で私を見てお茶をついでくれる。
本当に私はお姫様扱い。
「いただきます」
私はお味噌汁に口をつけると、出汁の香りがよく、味噌の具合も最高。わかめと豆腐の一番ベーシックな食材で、ほっとする。
「どうだ?塩辛くないか?」
「とんでもないです。すごくおいしい」
その言葉を聞いて微笑んだ瞬間、静かな空間を切るように携帯の着信音が鳴った。
聞きなれない音だったため、近藤課長のものだとわかる。
彼は私の返事を待っていた様子から、立ち上がってキャビネットの上に置いていた携帯を取る。
「ユズ、どうした?」
もしもしすらも言わず、開口一番で彼は尋ねた。
「なんだと?場所は?ああ、わかった。すぐに向かう。俺から連絡して一緒に行く。到着するまで、指揮を取っていてくれ」
そう伝えると近藤課長は電話を切り、先ほどまでとは別人の、鋭利な視線を私へ向ける。
「希子、事件だ。すぐ現場まで向かうぞ」
力の入った声が響く。
最初のコメントを投稿しよう!