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3月 ⑧
「えっ?事件?」
今日は休みじゃなかったの?
一気に緊張が走る。
よくよく考えると彼は刑事課の課長。何かあれば連絡は入るし、現場を重視する性格なら休みだろうが飛んでゆくはず。
そして、その相方である私も同行しなければいけない。
なるほど、改めて近藤課長とコンビを解消する人が多い訳だ。家族がいる人だと、休みでも強制で呼び出しを受けたら容易に家族サービスを計画できない。
「わかりました。すぐ準備します」
私服を脱ぎ捨て、タイトな動きやすいスーツに着替え部屋を出る。
「近藤課長、どんな事件でしょうか?」
彼は玄関へ足早に向かいながら「一般民家への強盗だ。老人を人質に立て込もっているらしい。急ぐぞ」私を見ることなく、地下の駐車場へ行き、車に乗った。
立てこもりによる強盗。
金銭目的で一般民家に入った犯人は、特に目的に沿えるものが無かったため、おばあちゃんを人質にして、親族へ身の代金を要求したらしかった。
現場の家は都心から離れていて、古い民家と畑ばかりの地域。
連絡を受けた警察が到着したが、膠着状態が続いていると、近藤課長はユズさんから聞いたらしい。
年々、老人をターゲットとした犯罪が増えている。強盗、詐偽、恐喝。
現場へ到着すると民家の周りを囲むようにして、警官が緊張した面持ちで様子を窺っている。
近藤課長は対応しているリーダーの群集に入ってゆく。
「ユズ、今の状況は?」
仕切っているユズさんに状況を尋ねると「覆面しているからわかりませんが、4人組です。人質は特に暴行を承けた様子はないようです。ただ、段取りの悪さからして、計画的では無いと推測します」男性らしい力強い瞳と緊張感を含んだ女性的なしなやかな声。
どうするべきか話し合っていると「おい、あんたら。ここは俺らの管轄だ。それに、このオカマ野郎が偉そうに指示を出してくる。こんなん信頼できん。囲んで一気に突撃すりゃ、解決さ」55歳後半のかっぷくがいい男性が風を切るように近づいてきて言う。
「あなたは確か、岩田警部補でしたよね?」
無表情で近藤課長は鋭い目を向ける。
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