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一番高らかな声を上げて笑う人を見て、私は目を疑った。
それは、紛れもなく近藤課長。
「岩田警部補、流石です。面白いことを。みんなが笑うように、つい俺も笑ってしまいました」
「だろ?これが部下から慕われる理由だ、警視様なら、特別に真似していいぞ」
「いや、俺には無理です。そんな面白いこと言えませんし、何より自分はそうじゃありません」
「勉強しかしなかった頭では、確かに無理だろうな。悪い、悪い」
馴れ馴れしく岩田警部補は近藤課長に近づいて、肩に手を乗せた。
その瞬間「いでっ」と動物が車にひかれたような、地声が上がる。
近藤課長は岩田警部補の手首をねじ曲げ「触らないでくれますか?馬鹿がうつる」アイスピックに似た視線を刺した。
「な、なんだと?」
「俺も含め、みんな笑ってますよ。あなたが人に教えられるものがあるのかと」
彼は岩田警部補の部下たちを見て「だろ?」と口元を緩ませる。
取り巻きの男性たちは、頬を痙攣させ血の気が引いた顔で「いや、俺たちはそんな意味で笑ってなんか……」首を振る。
「お前ら、俺を馬鹿にして笑ってやがったのか?」
まだ捻られた手首の痛みに堪えながら、赤くなった目を向けた。
近藤課長は「俺には無理ですね。色々と教えることが本当にできますから、ジョークにならない。さっき言いましたよ、俺。『何より自分はそうじゃない』と。残念ながら自虐が通じるような、あなたみたいな無能じゃないんです」捨てるように手首を離した。
「無能だと?俺のこと何も知らず、何を根拠に」
「この5分で、よくわかりましたよ。あなたの作戦は一気に家屋を囲んで突撃する……家の図面を確認し、間取りを把握もしないで。犯人がどんな武器を所持しているかもわからずに?何より、突撃はあなた自身はしないんでしょう?自分は高みの見物でケガするリスクもなく、何かあれば警視庁の人間へ責任を負わせる。成功すれば自分の手柄。みんな、あなたと違って馬鹿ではない。人質だって、部下だって危険だとわかっている。わかってないのは、あんただけ。そりゃ、笑われますよ、岩田警部補」
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