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まだ何か反論しようとしていたけれど、部下達が取り囲むようにして岩田警部補を止め、引きずられるようにして彼らは姿を消した。
ただひとり、とりまきとは別で頭を下げた男性が「重要なときに波風立てて申し訳ありませんでした。俺は岩田警部補の考えは間違ってると思いながらも、言えずにいました。どうかお許し下さい」悔やみが滲む顔。
「君、名前は?」
「管轄署の巡査、山波と申します」
「山波か、覚えておく。後はあのじいさんを頼むぞ」
「はいっ」
彼も私と同じで、様子からして新人だと察しがついた。
唖然と私がしているとユズさんから背中をつつかれ「どう?近藤課長は。あんなに部下を守って助けてくれる上司なんてまずいないわ」じっと近藤課長の背中を見つめて言った。
あんなに面倒な人たちを一網打尽にするなんて、この人が何物かわからなくなる。
ただ、あの真剣で立ち向かう姿はかっこよかったと、のちのち思い出すことになる。
これこそが部下に慕われる本当の理由。
所轄の刑事さんたちの姿が消えたとほぼ同時に、若い男性が「土方警部補」とユズさんへ声を上げながら作戦部屋へ入ってきた。
土方警部補?
うそ、ユズさんって警部補なの?
さっきの岩田警部補と同じ階級。親子ほど歳が離れてるのに。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「手に入りました。あの家の図面」
バッグにファイリングされた紙を見てユズさんは「スコープ部隊と状況を急いで擦り合わせて。機動隊への提案書は私が作るから。とにかく早くね」来たばかりの警官に次の指示を送る。
家の図面、スコープ部隊、家屋内の状況把握をテーブルへ広げ「なに、これ。突入経路にすべて鉄の板を張り巡らせている。この写真から考えると、工事現場に敷いてある鉄板。きっと外の状況は、穴を開けて回りを窺ってるに違いない。計画的じゃないと思ったけど、完全に計画されてた……」頭を抱えた。
「それってもしかして、機動隊が来ても突破口が見当たらないということですか?」
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