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駅から警視庁まで転びそうになるぐらい全力で走った。訓練のおかげで、今が過去一番に足が速い自信がある。
周りをよく見る余裕もなく、庁舎に入るなり近くの人へ「捜査一課はどこですか」と尋ねた。
三階だと教えてくれ、エレベーターを待つ時間ももったいなく感じて階段を駆け上がる。
汗がだらだらと額から流れ落ちた。
事務所へ入ると「あなた、もしかして新人さん?」長身の男性からにこやかに話しかけられる。
「はいっ、今日から配属になりました望月 希子です。宜しくお願いします」
相手が誰だかわからなくても、挨拶はしっかりとする。
それにしても凛としていて芯が通った雰囲気。男性にしては長い髪に軽くウェーブがかかっていて、カッコいいというより綺麗な顔立ち。
声は男性だけど、柔らかい。
「私は土方 柚月。宜しくね。一応役職は主任だけど、気を使わなくていいから」
優しそうで、中性的。フェミニンな印象を受ける。
「ありがとうございます。土方主任」
「あ、それ嫌いだから禁止。ユズさんって呼んで」
「え、でも警察は縦社会ですし、上司に対してそんな……」
「縦社会なんて、もう古いと私は思ってる。実際はまだまだ昔ながらの体質だけど。だから気兼ねなく仲良くやりましょ。それに土方主任なんて、堅苦しくて息が詰まりそう」
気づかいある口調で品がある性格だとすぐにわかった。刑事なんて怖いイメージだったため、ほっとする。たぶん30代前半で歳も近い。
でも、なんだか違和感がある。
どうやら戸惑っている様子を察したらしく、ユズさんは「おネエっぽいなって思ってるでしょ?」くすくす笑った。
「いえ、あの……」
「いいのよ、気にしなくて。慣れてるから。私ね、ゲイなの」
いきなりのカミングアウトに私は動揺を隠しきれなかった。見た目は美しい顔立ちの男性だけれど、艶っぽさがある。
どう返事していいかわからなかった。
別に今の世の中だし、私に偏見はない。でも出会ったすぐに面と向かって言われたことが無かったため、反応に困った。
「希子ちゃん、素直ね。気持ちが顔いっぱいに出てる」
「えっ、あ、ごめんなさい」
中性的で感じたことがない独特な魅力。
「謝らなくていいわ。むしろ、私はいつもそんな反応を楽しんでいるから」
ここまでオープンにし堂々としているなんて、心から凄いと思った。
でも改めて考えてみれば、隠すような悪いことじゃない。素敵さが数段上回る。
ただ男だらけの警察社会の中では相当な勇気がいったはず。偏見や差別、好奇心にさらされながら、1日の大半を過ごさないといけない。
ユズさんが本当の自分を教えてくれているなら、私も本音で話したい。
「身近にゲイの人居なくて、ちょっと驚きました。心は女性で体は男性なんですか?」
本音でも、一気に踏み込みすぎたと言ってから後悔した。
顔を険しくさせるユズさん。
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