2、東京都江戸川区

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2、東京都江戸川区

神澤翔はS川急便の正社員ドライバーだ。 娘のももかは、区立小学校の1年生。 妻が亡くなって奥多摩から東京に出てきた。娘の将来を考えての転居だった。 翔は、生活のために人材不足の運輸業のドライバーになった。 前職は奥多摩の小さな神社の神主だった。食べていくのが、やっとだったが妻と神社を守っていた。その妻が亡くなって神主で在る意義が見えなくなった。氏子もあまりいない。 それよりも、どうやら凄く頭がいいらしい娘の先々を考えて都区内に出てきた。 東京都江戸川区は、千葉県だと勘違いするほど東京都の端っこだ。川一本向こうは千葉。家賃は都内でも安い。 ももかは、余りにも頭が良すぎて小学校でクラスメイトから孤立してしまった。でも、凄く気が強いので、平気のヘッチャラだ。わざとみんなの前で学術研究書を読んでいる。 間違ったふりをして、日系ブラジル人の子にポルトガル語で話しかけたりする。 相手は両親が家庭では母国語を使ったりしているので嬉々として相手をしてくれる。 ももかは、日本人より日系の子が好きだという。江戸川区にはインド人も多い。ヒンディー語、英語で話している。日本語もだ。 ももかは、外国語のブラッシュアップをしている。日系ブラジル人やインド人は、ももかから日本語のブラッシュアップをしている。 だから、孤立は対日本人だけだ。 ももかの父親である俺は、ドライバーの仕事が終わると、本を読んでいる。哲学、社会学、建築及び数学だ。本当は夜学で大学に行きたいが、小1の娘を置いていくことはできない………いや、俺がつまらない。ももかと学問の話をしていたりする方がいい。 家事は基本、分担だ。小1の子供に家事?これは虐待かもと思って、俺が全部すると言っても、ももかの方が言い返してくる。 「洗濯と掃除は私がするから、少しは料理をなんとかしてよ!マズイ!」 休日が日曜日の時は、ももかと2人で図書館だ。俺たち親子の読書スピードは早い。図書館で読んで、帰りは借りられるだけの上限の冊数を借りてくる。後は「弓道教室」に通っている。親娘2人で。 こっちは元々才能があるみたいだ。 2人とも。 娘との二人暮らしも案外楽しい。 妻が生きていたら……と思うことも度々ある。でも、後ろは振り向かないようにしている。 妻の名前は陽子。3つ年下の識字障害の平凡だけど優しい女だった。 もっともっと学びたい。 これが俺たち親子の共通の意欲だ。 何かに急かされているような気さえする。
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