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17、タワマン
カケルと桃花は、東京都中央区にいた。中央区の埋立地ににはタワマンが密集している。
桃花が呆れたように「ユッサユッサ揺れてるねぇ」と言うと、カケルが「ああ、上の方はメトロノームみたいだな。」と言葉を返す。
長周期地震振動でタワーマンションは、ゆらりゆらり揺れていた。
「あのさ〜こういう建物に住んでる人たちって上層階と下層階でマウントとか掛けたりしてるんでしょ。大抵は上層階住民が下層階住民を見下しているって聞いたよ。すでに天罰じゃない?上の方が笑えない。マンションの中で家具とご一緒に遊園地だよ。」と桃花が言う。
「でも、これは放置できない。エレベータは止まってるし、逃げようがない。かわいそうだ。」
「やるの?」と桃花はやる気なさそうに言った。
「一棟ずつやる。急に止めると建物が折れてしまう。俺が構造を見て計算するから、桃花はそのポイントに念動力で力を打ち込んでくれ。」
カケルは遠隔視と透視が使えるようになった。引き換えのように記憶消去はできなくなった。更にその優秀な頭脳で建築学の見地から、タワマンの構造を見て揺れを最小限の時間でソフトランディングさせるように一棟ごとに暗算てポイントを叩き出した。
桃花は父から頭に送られてくる数式通りにポイントに力を加える。仁王立ちになって左人差し指でポイントに圧を打ち込む。
タワマンの揺れはすぐには止まらない。止めてしまうと折れてしまう。この揺れ自体が免震機能なのだから。
でも、タワーマンションは、大規模災害で酷い目に遭う。
ここ中央区の地盤は埋立地だ。基礎こぞ深く杭打ちをしてあるが、土地が液状化するのは江戸川区と同じだ。水もすぐに出なくなる。
給水車が来ても水運びは地獄労働になるだろう。下層階の方が災害時には圧倒的に有利だ。
桃花の言う通り、上の階と下の階で差別化があるのなら、勝者は下の方だ。
災害は、価値観を一変させる現実が起こる。
持っているものが少ない者が勝者になる。持ち家は負債になり、住宅ローンは只の借金になる。
豊かな暮らしだと思っていた世界が、大きな負債の世界になる。
それを日本人は、これから払っていくのだ。政治には、もはや期待もない。住宅政策そのものが野蛮だった。
なぜ持ち家なのか、なぜ安価な公営住宅が少ないのか。安価な公営住宅に家族の形態が変わるたびに住み替えればいいではないか。
それは、大手不動産業と大手建築業と金融そして政治家が繋がっているからだ。持ち家という「呪い」を国民にかけ続けている。
100年〜数100年に一回同じ場所で大地震が起きるこの国で、なぜ、持ち家なのか。
カケルは怒りを感じていた。縄文時代、何もかも人は等しく平等に分け合って暮らしていた。
1人でいることを義務付けられた自分は、どんなに便利なものを作っても心は満たされなかった。
カケルと桃花は場所を移動しながら、タワマンを周り続けた。
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