19、東京拘置所

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19、東京拘置所

安達実果は、最初の本震の時、刑務作業をしていた。 彼女の刑務作業は年寄りの受刑者の「介護」だった。毎日毎日年寄り達のおむつを変えていた。 実果は自分の身体中から糞便の匂いがする気がしていた。 なんで、こんな仕事を充てがわられなくちゃなんないんだ。 受刑者の中でもVIP中のVIP。だけどコイツらは生きてるだけで意味ないだろ。いっそぶっ殺してやりたかった。本震が来た。 凶悪犯のBBAたち、全員死ね!と思っていたら、自分の方がアッサリと倒れてきた備品棚の下敷きになった。 死んだと思ったら、死なない自分に気がついた。 実果……ヌチは、安達美香の「衣」を脱ぎ捨てた。 ついでに糞便製造機を全部破壊した。本体が出てきて漸く力が使えるようになった。 本当にムカついていたので糞便製造機共はバラバラに解体した。 納税者様に貢献してやった。 東京の街は闇で満ちている。 私らの出番だ。「黄泉国」も待っていた。時が満ちるのを。 ここから、ショータイムだ。人間は弱い。略奪、暴力、強姦タイムだ。 仲間は集合しているだろうか。チームリーダーの私が到着するのを待っているだろう。 ヌチは美しい女だった。長い黒髪がメデューサのように束になって動き回る。慈悲深い顔だちに大きな目、長いまつ毛、赤い唇。身体もアニメキャラと言ってもいいくらい出るところは出てウエストは細く脚も長かった。 まるで西の御使を思わせるようなチュールの薄いアイボリーの布を纏っていた。 ヌチは拘置所から飛翔して飛び出した。 東京大田区の下町。あの場所に仲間は集まっている。 (よう)をぶっ殺したあの場所は、今は更地だろうか。新築一戸建てが建っていてもおかしくない。心霊スポットになっていたら最高に笑える。 今になって分かる。私が殺した(よう)の中身は高天原の女王だ。痛ぶっても痛ぶっても許しを乞わなかった。 泣きもしない、軽蔑した目で睨み返してきた。あんなこと人間にできるはずがない。 高天原の女王に初めて会った瞬間、大嫌いになったのも至極当然だ。 私の(あるじ)の天敵。 あんなに気が強い性格の女だったとは意外だった。 随分前に『衣』を纏った私の手下が襲った時には、分かりやすく泣いて暴れたと聞いていた。まるっきり普通の外国仕様の『衣』を着て普通の人間の女のようだと報告を聞いていた。 正体は、あの太々しい(よう)の『衣』を纏っていた時の態度だ。 (あるじ)が憎しみに近い嫌悪を抱くのも分かる。あの目は私を相手にもしていなかった。 闇の世界のものは、相手を闇堕ちさせるだげでは満足しない。周りの者も含めて闇に染めてしまうことこそが達成である。 私は、安達実果で、人間の両親と弟を闇に染めた。私達、闇の世界のものは闇に陥りやすい人間や神しか相手にしない。 だから、高天原と共存してきた。向こうはどう考えているか分からないが、現実は共存になっている。 日本(ここ)は闇と光の島。 当然の着地点だろう。高天原の女王(アマテラス)。いい加減に事実を認めろよ。
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