2、東京都江戸川区

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トラックドライバーとは言っても俺の仕事は宅配中心だ。 前は空振りの3回、4回配達も多かったらしい。今は、不在票を入れておくと、大抵の配送先人はスマホで再配達を申しこんでくる。「置き配」も多くなった。少しは楽になったと先輩の同僚は言っている。 それにしても人が足りない。配送ドライバーは、お客様が望む時間に荷物を届けなければならない。きっと、荷物が届くのを待っているだろうお客様の顔を思い浮かべて頑張っている。 「ご苦労様でした。」 「大変ですね。お手数かけました。」 「ありがとう。待っていました。」 「ありがとう」という言葉。 ニコニコしながら応対に出るお客様の顔を見ると、荷物が多いのも重いのも、その割に給料が少ないのも帳消しになる気がする。 俺は荷物を運んで、笑顔を貰って帰る。会社の作業着というか制服も「一体感」があっていい。 中々、この仕事はかっこいい。このネット時代にあって、俺たちみたいなのがいないと本当にみんな困るんだよ。 毎日、運転して荷物を届ける。ただそれだけの仕事じゃない。俺たちも社会を支えている。 俺の会社は、労災対策もしっかりしている。俺たちが履いている靴は普通に見えて、結構ゴツい安全靴だ。それも会社支給だ。だってS川の制服だもの。靴もな。 仕事は自分に誇りを与えてくれる。いいことばかりじゃない。嫌なこともある。 やたら手を握ってくるオバサンがいたり、俺の場合、クセのある女性に逆ナンされる。気持ち悪いし怖い。制服のネームプレートで名前まで覚えらて、やたら通販の品物を度々………というか連日買う女性から「疲れるでしょ。飲み物でもいかが?」と言われた日には殆ど恐怖を感じる。 速攻、事務所に報告して受け持ちルートを変えてもらう。 同僚がこぼしていた。 「必ず、そういうの沸くから。どこへ行っても同類がいるから。神澤は見た目がいいから、殆ど獲物だ。気をつけろよ。前にもそういうのに乗っちゃって、不倫して晒し首状態になった奴いるからさ。 後さ、事務所のパート事務員にも気をつけな。パートと不倫してパートの旦那が乗り込んできて事務所の中で大立ち回り。それは、両成敗で首にはならなかったけど、針の筵。結局、パートの方は離婚になっちゃって、そいつ責任感じて結婚したよ。ひと回り以上年上の妻だよ。もちろん子供付き。20代前半の男の話だけどさ。神澤も30代前半だろ?気をつけな。」 この同僚は俺と同じくらいの歳で、話の中の結婚した20代前半の男は多分自分のことを言っている。 彼は人生に絶望したような表情をしていた。
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