3、東京都奥多摩町

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3、東京都奥多摩町

翔とももかは、奥多摩の水川神社に来た。 急勾配の石段を登って。 ここで、翔は神主をしていた。妻が亡くなった4年前まで。ももかを産んで妻は病床についた。ももかは立川の叔父に預かってもらっていた。翔は、此処で1人で暮らしながら、妻の看病のため病院に通っていた。4年前、妻、陽子は亡くなり、自分とももかは神社に戻った。ももかは3歳だった。 東京に出たのは、その1年後で今から約3年前。 目の前の「水川神社」は3年どころではない長い年月、手を入れていないかのように荒れ果てていた。 自分達が住んでいた母家も離れも跡形無く更地になっていた。 ももかが、翔の右腕の袖を引っ張る。 「お父さん。ここじゃない。私が夢で見ているのは此処じゃないよ。もっと広い平地の草原。」 人が手を入れなくなった建物は急速に傷むと知識では知っている。でも、この荒れっぷりは、魔法が解けたようだと翔は思った。 立川の叔父、晃は海外に行くと言っていた。立川の叔父の家にも誰もいない。 翔は狐に摘まれたような気がした。 江戸川区の今の自宅に戻ることにした。帰る道すがら、ももかは涙を堪えていた。堪えても溢れる涙を翔は見て見ないふりをした。 ももかはアパートに着くと、泣いて父親に八つ当たりをしだした。 「こんなところ、私の世界じゃない!何かが間違っている!」と何度も何度も言いながら、それは泣き叫んでいるのと同じだった。 「此処じゃない何処か遠いところに行きたい!」 「なんで、勉強が好きで成績がいいだけで、妬まれなくちゃならないの?友達なんかできない!日本人は無理!小さな島国で順番をつけるのが大好き!みんな、死ねばいい!」 翔は、娘の顔を引っ叩いた。 「『死ね』なんて言う奴は自分が死ねばいいんだ。それは絶対に言ってはいけない言葉だ。お前は、頭すら良くない!それが、分からないお前は人間でもない!それを他人に言った瞬間に人間ではなくなる!感情でも使ってはいけない言葉だ!分かっているのか?」 もちろん、ももかは分かっていた。でも、父に甘えていたから言っただけだった。 穏やかで、どんなワガママでも聞いてくれた父から生まれて初めて叩かれた。 ももかは父に「ばか!クソオヤジ!」と言って狭い2DKの自分の部屋に閉じこもった。 1人になって泣いていた。頭の中は「帰りたい」で一杯だった。 どこに帰るのかは分からなかった。
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