女王の決断

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「ハニス、入るぞ」  ドアをノックし声をかけると、エオリアは返事を待たずに部屋へと入った。ハニスは少し不機嫌そうな顔をしたが、母が手にした王冠を見て表情を変えた。 「お母さま、何事ですか?」 「移転先が決まったのでな。2、3日したらここを出ることになる。その前に、お前に大事な話をしなければならない」  母親の口調に、ハニスは少しばかり緊張した。これまでも、女王になるための教育を受けてはきたが、こうして面と向かって話をするのはひさしぶりかもしれない。  エオリアはハニスと対面して座ると、テーブルの上に王冠を置いた。 「この王冠を、次の女王になるお前に託す」  ハニスは不思議そうに首を傾げると、「なぜですか?」とたずねた。 「新しい王冠なら、いずれ作らせようと思っていましたのに」  だが、エオリアは横に首を振り「それではダメだ」と言った。 「王冠は、城と共に代々受け継がれていくものなのだ。私も、先代の女王からこの王冠を受け継いだ。次はお前の番だ」  そう言われて、ハニスは改めて王冠を見た。黄金の密のような光沢を放つ冠。いつも母親の頭上にあったそれは、娘であるハニスには見慣れたものだった。だが、それが代々受け継がれてきたものだとは知らなかった。 「では、お母さまどうするのですか? この城を出たとしても、女王という立場は変わらないのでは?」  ハニスはふと浮かんだ疑問を口にした。  すると、エオリアはクスッと笑って言った。 「新しい王冠を作る」 「えっ……? ず、ずるいですわ、お母さま!」  顔を真っ赤にして怒る娘を見ながら、エオリアは声をたてて笑った。 「いやいや、そう怒るな。これは、習わしだ。王冠は、母から娘へと継がれていくもの。新しい城で次の後継者が誕生すれば、それはまた、新たな女王のものとなる」 「では、私もいずれ、この王冠を託す時が来るのですね?」 「そうだ。それまで、大切に扱え」  エオリアはそう言うと、娘の部屋を後にした。
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